第640回

家計の健康診断をして家計管理のキッカケにする!!

夏が過ぎ、暑さもやわらいで落ち着いてきたので、これまで家計簿もつけず放置していた家計の管理をしっかりやっていきたいと思っています。しかし、何から手を付けたらよいかわかりません。やり方やポイントを教えてください。(Hさん 群馬県 32歳 女性)
まず、家計の管理をする気持ちになったこと自体がとても素晴らしいことだと思いますね。家計管理のポイントは、最初に現状の把握を行うことです。現状把握はいわば「健康診断」とも言えるでしょう。家計の健康診断の結果からは、問題点や課題、今後の目標が見えてくるはずです。これらを明らかにするだけでも、暮らしの中のストレスや不安の解消につながります。

まず、収入、支出、資産、負債を明らかにする!

家計の現状把握は、家計の収入、支出、資産、負債を明らかにすることです。家計簿をつけていない方は「支出の明細がわからないからできない」と思うかもしれませんが、そんなことはありません。手元にある情報だけでもある程度正確に現状把握をすることができます。

収入の把握方法

最も手っ取り早い方法は、給与口座に勤務先から振り込まれている過去1年間の給与・賞与額を合計することです。これで「手取り収入」を把握することができます。なお、給与から生命保険料や財形貯蓄などが差し引かれている場合は、それらの1年分の額を、給与口座の合計額に加えた額を「手取り収入」と考えます。

支出の把握方法

家計簿をつけていなくても、支出の中の家賃、駐車場代、生命保険料、固定資産税、住宅ローンの返済額などの固定費はわかっているはずです。また、水道光熱費や携帯電話料金など毎月差し引かれる料金も、請求書や銀行口座、クレジットカードの明細でわかります。これらの過去1年分を合計します。

その他の食費や日用品費などは家計簿をつけていないとわからないでしょうから、その場合は、あとで「1年間の手取り収入額」-「1年間の貯蓄額」から推測することにしましょう。

資産の把握方法

家計の資産には、主に金融資産と住居や土地などの不動産があります。不動産は、近い将来売却の予定がないのなら、時価でなくても固定資産評価額を把握しておけばいいでしょう。固定資産税評価額は毎年春に市町村から送付される納税通知書に記載されています。

金融資産は、名義別、金融機関別、商品別に残高を把握するようにしましょう。

また、「現時点の金融資産の総額」-「1年前の金融資産の総額」=「1年間の貯蓄額」も把握するようにしましょう。「1年間の貯蓄額」が分かれば、

「1年間の手取り収入額」-「1年間の貯蓄額」=「1年間の支出額」

となるはずなので、「1年間の支出額」から、すでに明らかになっている家賃や生命保険料、住宅ローン返済額などの固定支出や水道光熱費、携帯電話料金を差し引けば、食費や日用品費などの支出額を推測することができます。

なお、「1年間の手取り収入額」-「1年間の貯蓄額」が、想定を超えて多額な場合は、「使途不明金」がある可能性が高くなります。

負債の把握方法

負債は、名義別、金融機関別に、ローン種類、ローン残高、金利タイプ、適用金利、返済終了年月を明らかにします。

負債一覧表(例)
金融機関 ローン種類 ローン残高 金利タイプ 適用金利 返済終了年月
合計額
1,345万円
 
A銀行
住宅
1,250万円
固定
1.75%
2025年5月
B銀行
自動車
80万円
変動
2.1%
2018年2月
C銀行
カード
15万円
変動
10.5%
2016年4月

もし、今のローンの返済額、返済期間に不安があるのであれば各種ローンの見直しを行いましょう。

最大のポイントは、「貯蓄体質になっているか?」

家計の健康診断をする上で最大のポイントは、「貯蓄体質の家計になっているかどうか」です。安定して貯蓄ができる家計は、毎年増える金融資産を使って負債を減らすことができます。また、子供の教育費や住宅取得、老後生活など、今後のライフイベントにかかる費用を準備しやすくなります。

逆に、慢性的に貯蓄ができず、金融資産を取り崩している家計は、一刻も早く現状から抜け出さなくてはなりません。

具体的には、主に以下のことを見ていきます。

「現在の金融資産額」-「1年前の金融資産額」

この金額がマイナスになっている場合、その理由が借金の繰上返済であれば良いのですが、その他の理由であれば、収入額よりも支出額が多く金融資産を取り崩して生活を維持していることになるため、いずれ家計が破綻しかねません。早期に世帯収入を増やす方法を考えると同時に、支出の削減策を考えて実行する必要があります。支出をスリム化するには、家計簿をしっかりつけて支出の履歴を残し、使途不明金を洗い出すとともに、支出項目ごとに必要性を判断して、消費習慣を変えなければなりません。

逆にこの金額がプラスであれば、借金の繰上返済をして利息負担の削減を考えてもいいかもしれません。また、今後予定しているライフイベントの費用を早く準備するために、これまで以上の野心的な貯蓄目標を立て、目標に向かって収入を増やす方法、支出を削減する工夫を考えましょう。

「現在の金融資産額」-「現在の負債合計額」

この金額がマイナスであることは、現在の金融資産全額を使って繰上返済をしても、借金が残ることを示しています。ただ、住宅購入のために住宅ローンを組んだ場合などは、多くの家庭でこの金額はマイナスになることもあり、必ずしも悪いわけではありません。しかし今後計画的に早く借金を減らすことができれば、それだけ利息負担を減らすることができることを認識しておく必要があります。

また、負債の額が少なければ、将来なんらかの理由で新たな借金をしなければならなくなった場合も、審査の時に有利な場合もあります。

借金が複数ある場合には、ローン残高や金利水準、金利タイプ、現在の貯蓄額などから繰上返済の優先順位を決めて実行し、借金の数をなるべく少なくシンプルにするようにしましょう。

家計を見直すキッカケにする!

家計の健康診断をすると、家計の現在の問題点や、将来のライフイベントの実現に向けた課題が浮かび上がります。それだけでも、漠然と不安を感じていたこれまでより格段の進歩です。問題点や課題が明確になれば、次に何をしたらよいかがわかります。また、夫婦で共有すれば家族の共通の目標を定めることもできます。

思い立ったらすぐに家計の健康診断をして、早く家計をより良い状態に近づけるようにしましょう。

【参考リンク】

私が書きました

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中村 宏 (なかむら ひろし)

ファイナンシャル・プランナー。株式会社 ワーク・ワークス代表取締役。

教育出版社勤務後、2003年にファイナンシャルプランナーとして独立。「お客様のお金の不安を解消する」をモットーに、1,500件を超える個人相談、セミナー講師、雑誌取材、執筆・寄稿等を中心に活動。無料メルマガ「生活マネー ミニ講座」を配信中。著作 「自分のお金の育て方」(祥伝社)、「老後に破産する人、しない人」(KADOKAWA中経出版)。

※執筆日:2015年09月15日