第997回

留学を希望しているが円安や現地の物価上昇が不安。どうすればいい?

新型コロナウイルス感染症による海外渡航や帰国時の制限がかなり緩和されてきました。かねてより大学生の娘が海外への短期留学を希望していたため、できれば願いを叶えてあげたいと思っています。しかし、最近、急激な円安が進み、留学にかかる資金が多くなるのではと不安です。断念したほうがよいでしょうか。(埼玉県 会社員 男性 50代)
確かに、最近は新型コロナウイルス感染症に関する諸外国の入国制限や、日本の水際対策が大幅に緩和され、留学しやすくなってきました。ただ、ここのところの急激な円安は、留学費用の増加をもたらします。だからといってすぐに断念するのではなく、留学先、留学期間などを見直すなどして、資金計画をしっかり立て、留学を実現する方向で検討してはいかがでしょうか。

円安が進行すると、海外留学にかかる費用負担が増える

国によって対応は異なるものの、最近になって新型コロナウイルス感染症に関する諸外国の入国制限や、日本の水際対策が緩和されてきました。感染が拡大しはじめてから2年半以上経過して、ようやく海外留学がしやすくなってきました。

一方で、ここのところ進んでいる円安は、留学費用の負担増をもたらします。

円安は、今年(2022年)の2月以降大幅に進行しました。米ドルと円の為替レートについて、2022年2月の月間平均は1米ドル=115円でしたが、8月は135円、9月は143円になりました。2月から9月までの7ヶ月間で実に約25%も円安が進んだことになります。これは、単純に考えると、米国留学にかかる米ドル建て費用は同じでも、そのために必要な円建ての資金が25%増えることを意味します。仮に米国留学にかかる費用が5,000米ドルとした場合、2月時点で必要な円建て資金は約57.5万円でしたが、9月には71.5万円となり、14万円増えた計算になります。

留学にかかる外貨建ての資金は、現地での学費、宿泊費、食費、お小遣いなどさまざまであり、これらすべてについて、円安による負担増が見込まれます。

留学先の国のインフレ(物価高)でさらに負担が増える!?

円安が進んでいる理由は、アメリカをはじめとした世界各国で進んでいるインフレ(物価高)を抑えるために、各国の中央銀行が利上げをしているからです。ロシアがウクライナに侵攻した2022年2月以降、主にエネルギーや食糧などの価格が上昇し、世界で急激にインフレが進行しました。日本も物価が上昇していますが、日本銀行は利上げをしていません。なぜなら、日本の現在の物価上昇は、賃金の上昇を伴っていないため持続的でないと判断しているからです。その結果、日本と外国の金利差が拡大し、金利の低い円が売られて安くなり、金利の高い外国の通貨が買われて高くなっているのです。

日本銀行は、今後も当面は利上げをしないとしている一方で、アメリカなどは、インフレを抑制するための利上げは躊躇しない方針を示していますので、金利差の観点から考えると、今後、さらに円安が進行する可能性があります。

留学先でインフレ(物価高)が進むと、留学費用の負担はさらに重くなります。例えば、アメリカの2022年8月の消費者物価指数の前年同月比は+8.3%です。つまり、1年前よりも商品・サービスの値段が平均して+8.3%高くなったことを示しています。単純に言うと、仮に1年前の留学費用が5,000米ドルだったとすると、今年は5,415米ドルになっている計算です。

プランの見直しや、資金調達の多様化などによって留学を実現する方法を検討する!

学生時代など、若い頃に留学して海外の暮らしを経験したり、外国に知人ができたりすることは、大きな学びになります。その後の人生に大きな影響を及ぼす場合もあります。ご両親の立場であればお子様の希望を叶えてあげたいと思うでしょう。

インフレや円安で、費用負担が重くなる中でも、留学を実現するために検討できることはいろいろあります。

まずは、留学プランの見直しです。留学する国や地域によって為替レートは異なります。また、国によってインフレ率(物価上昇率)も違います。アメリカのような広い国なら、地域によって物価も違うでしょう。留学する国や地域を見直すことで費用の圧縮ができるかもしれません。また、留学期間の短縮を検討して費用を少なくする方法もあります。

なお、留学費用の見積りは、今後のインフレ率(物価上昇率)や為替レートを予想することは困難であるため、その時の数値をもとにすることしかできません。したがって、実際にかかる費用は、見積もった金額より1~2割程度多くかかるかもしれないと、多めに想定しておく必要があるでしょう。

資金準備の観点から検討できることもさまざまあります。まずは、家計の見直しです。お子様の留学を優先するのであれば、その他のライフイベント費用を削減することも考えられます。家計にムダな出費があるようなら、この機会に家族でムダをなくす取り組みをする必要があるかもしれません。

海外留学の費用を支援する制度の確認もしておきたいものです。在学している学校には留学相談ができる窓口があるでしょう。

自己資金で不足する資金は、民間金融機関が提供している教育ローンを活用する方法もあります。ただし、お金を借りる場合は、生活に支障をきたさない範囲の金額にとどめることが大切です。

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中村 宏 (なかむら ひろし)

ファイナンシャル・プランナー。株式会社 ワーク・ワークス代表取締役。

教育出版社勤務後、2003年にファイナンシャルプランナーとして独立。「お客様のお金の不安を解消する」をモットーに、1,500件を超える個人相談、セミナー講師、雑誌取材、執筆・寄稿等を中心に活動。無料メルマガ「生活マネー ミニ講座」を配信中。著作 「自分のお金の育て方」(祥伝社)、「老後に破産する人、しない人」(KADOKAWA中経出版)。

※執筆日:2022年10月06日