第19回

行ってみました、マジック教室!(前編)。

モテる余興を身につけたい!

忘年会・新年会のシーズンがやってきた。

この時期の宴会には余興がつきもの。
宴会で一芸キメれば、「面白いやつ」と注目されて、どんどん仕事が舞い込んでくるに違いない。

だけど、私には一芸がない。

なるほど。
だから、いまいち、面倒くさいわりにギャラのしょっぱい仕事しかこないのか(いいえ。この連載のことではありません)。

というわけで、私に必要なのは一芸。しかも周囲の誰もがスゴい! と感心するようなちょい上な余興を身につけることが、自分の生存確率を上げることと認識したわけだ。

そんな時に、気になる教室を発見した。
うむ。これぞ宴会芸と呼ぶに相応しい。一度は誰しも会得したいと思いつくであろう。
そう、マジック(手品)教室である。

「よろしくお願いします! 」
訪れたのは東京・江戸川区のとある場所。マジック教室「魔法使いの発想術」の門を叩いたのでした。ちなみに先生はこの方、中里正紀さんです。

■マジック教室「魔法使いの発想術」
初回受講料は3時間5,000円から。東京都江戸川区、都営新宿線一之江駅近くで教室を実施中。
http://www.magicle.com/

「ようこそ」と私と編集者Hを出迎えてくれた中里正紀さんの、いかにもマジシャンらしい姿に少々緊張するも、まずはどんな教室なのか話を伺うことにした。

「当教室では、いつでもどこでもできる“即席マジック”を専門に指導しています。手品道具を必要とせず、身の回りにある物を使って演じられるのが一番のウリです。手軽に取り組めるので、マジックが初めての方でも気楽にご参加いただけます」(中里さん・以下同)

初心者OKと聞き、まずはひと安心。また一般的なマジック教室の場合、帽子やステッキなどタネがしかけられた道具を用いて指導を受けるようだが、中里さんの教室ではそれらの道具を一切使わないというのは興味深い。

「結局、手品道具を出した時点で怪しまれるんです。それよりはパーティーや飲み会などの席上で、誰かが持っている物を拝借して即興で演じたほうがインパクトは強い。そのために欠かせない技術的なテクニックはもちろん、観衆を前にした心理的な誘導法や話術、巧妙な原理なども含めて指導しているのです」

「なるほどねえ」
っと、ちなみに本日は特別に取材用のマジック教室を開いてもらったので、生徒は私のみ。プライベートレッスンであります。

それにしても、気になるのは中里さんの経歴だ。
話をそちらに向けると、これがまた興味深かった。

中里さんは9歳でマジックに目覚めたという。当時、テレビで初代・引田天功氏が登場。華麗なイリュージョンに魅了され、マジシャンの夢を持つようになったそうだ。そして大学時代は日本奇術連盟にアルバイトとして所属。手品用品の実演販売やプロの助手として学ぶかたわら、日本とニュージーランドにて自転車で野宿旅をしながらストリートマジックライブを行った。

そして大学卒業後、手品用品メーカーに就職。5年間在籍するも家業を継ぐためにやむなく退職し、以後マジックの世界から完全に身を引くことになる。

「家業を継いでちょうど10年目の時でした。一区切りついて仕事が安定してきたのを機に、マジックの封印をそろそろ解いてもいいかなあという思いに。そこで、平日は家業に専念する一方、日曜日にマジック教室を開くようになったのです」

「まさに人に歴史あり、手品にタネあり、ですな! 」
別段うまいこと言った感もないのですが、したり顔になってしまったところです。

そして中里さんのマジック教室「魔法使いの発想術」は2005年のスタートから、自前のウェブサイトでの募集だけにも限らず、累計1,000名の生徒数を超え人気を博している。

そもそも、どんな目的でマジック教室に参加するのか?

「モモセさんのように飲み会の余興をはじめ、友人やお子さんの前でマジックを見せて驚かせたいといった目的の方が多いですね。中にはキャバクラで披露して女性にモテたいというニーズもありますよ(笑)」

「なんですと!(ギラン! )」
なるほど。マジックができるようになれば、すばらしい仕事のみならず、美しい女性まで呼び寄せるということなのですね。

さらにモチベーションの火がついた。
さっそく、体験入学させてください!

というわけで、プライベートレッスン開始である。

まずは、いくつかのグループを作り各人ニックネームをつけて自己紹介することから始まるという。

次に、中里さんが教壇に立っていくつかのマジックを披露。タネ明かしをしたのち、グループごとに見せ合って練習する。

練習では手先が不器用でうまくいかない人もいて、互いに真の姿がさらけ出されることで、グループのメンバーは次第に仲良くなっていく。そして最後には、ひとりずつマスターしたマジックを発表するという流れ。発表の場は各グループとも大盛り上がりになるそうだ。

「マジックは笑顔を呼び込み、人と人とのコミュニケーションにも魔法をかけるんです。実際、教室に参加された生徒さんの中には、結婚されたカップルが2組もいますよ」

やはり……モテるのか!
マジック、私の中でかなり、きてます。
きてます!!

「きてます!!」
というわけで、自分につけるニックネームは、超魔術なマリック先生にあやかってみました。

まずは見本として、中里さんが3つのマジックを披露してくれた。

1つ目はハンカチを使ったマジックである。

「これは四次元ハンカチです。ほら、見ての通り何もない」
と中里さん。

「ちょっとここを触ってもらいますか」
言われたとおりに触ってみますと……。あれ、何かある!

「 ! 」
突然、5円玉が現れましたよ。

5円玉をポケットに仕舞い、また同様に促されて触ると――。

お札が出てきてビックリ!

さらに――。

「タバコだ! 」

「ライターだ! 」

こんな感じで、四次元ハンカチからなぜかモノが出てきてポケットにしまうと、また新しいモノが出てくる。

どういうこと!?

混乱する私を尻目に、中里さんは2つ目のマジックを披露し始めた。

「ここに割り箸がありますね」
と、取り出した割り箸。

「さっと、魔法のペンを取り出しまして…」
え、ペン? 何も持ってないように見えるんですけど。

「割り箸に文字を書いてみました。読めます? 」
だから、読めませんって! だって、ペンも何もないし何も書かれていないんだから――。

いぶかしがる私に先生が「あれ、そうですか? じゃあ、ちょっと見てください」と言いながら、すっと何も書かれていない割り箸に手をかざした。

「 !! 」
割り箸にかざした手がゆっくりおろされていくと――。

「なかざと」の文字が現れましたよ。
さっきまで何も書かれていなかったのに!

しかも、魔法のペンで書かれたこの名前、裏には何も書かれていなかったはずなのに、中里さんが裏にふーっと息を吹きかけると――。

「なかざと」の文字が裏にも現れた! なぜ!?

目の前でマジックを見せられ、編集者Hと二人、驚くばかり。
いずれも身の回りの物を使ったシンプルなマジックだが、タネがまったくわからない。

はたして不器用な私にできるのか?
女性にモテることができるのか?
モリック、がんばる!
(次回へ続く)。