第991回

住み替え前提の住宅購入。住宅ローン控除はどうなる?

子供が再来年には小学校に入学することもあり、近いうちに住宅の購入を考えています。ただ、将来は転勤の可能性があり、場合によっては何年か後に住宅の買い替えをするかもしれません。その場合、住宅ローン控除はどうなるのですか。買い替え後の住宅にも適用されるのでしょうか。また、適用期間はどうなるのでしょうか。(愛知県 36歳 男性 会社員)
住宅ローン控除は、住宅ローンを利用して住宅を取得した場合に、取得した人の金利負担を軽減するために設けられている税制優遇の仕組みですが、そもそも恒久的な制度ではありません。1972年にこの制度の元になる仕組みがスタートして以来、延長が繰り返され、国の経済状況の変化に合わせて、適用条件や控除額、控除期間等の変更が行われつつ現在に至っています。現時点では、入居年が2025年までの制度の存続と内容は決まっていますが、2026年以降は決まっていません。したがって、最初に取得する住宅の入居年等や、買い替え時に取得する住宅の入居年等によって、制度適用の可否や控除額、控除期間等が異なることに注意が必要です。

まずは、現在の住宅ローン減税の制度内容を確認する!!

住宅ローン控除は、住宅の取得を促進するため、住宅ローンを利用した時に、取得者の金利負担を軽減する税制優遇制度です。毎年末の住宅ローン残高、または、住宅取得対価のいずれか少ない方の金額の0.7%が最大13年間、所得税から控除されます。所得税から控除しきれない場合は、住民税からも一部控除されます。

2022年度の税制改正によって、期限が4年延長され、2025年の入居年までが対象になりました。内容にも変更が加わりました。なお、2026年以降については、制度の有無も含めて現時点では決まっていません。

住宅ローン控除の主な制度内容
新築/既存等 住宅の環境性能等 毎年末の借入限度額 控除率 控除期間
2022年・
2023年入居
2024年・
2025年入居
新築住宅等 長期優良住宅・低炭素住宅 5,000万円 4,500万円 0.7% 13年間
(※)
ZEN水準省エネ住宅 4,500万円 3,500万円
省エネ基準適合住宅 4,000万円 3,000万円
その他住宅(※) 3,000万円 0円(※)
既存住宅
(中古)
長期優良住宅・低炭素住宅
ZEN水準省エネ住宅
省エネ基準適合住宅
3,000万円 10年間
その他住宅 2,000万円

・住民税からの控除上限額:9.75万円/年(前年度課税所得×5%)
(※)「その他住宅」とは、省エネ基準を満たさない住宅であり、2024年以降に新築の建築確認を受けた場合は住宅ローン控除の対象外。ただし、2023年末までに新築の建築確認を受けた住宅に、2024年・2025年に入居する場合は、借入限度額2,000万円・控除期間10年間となる。

主な要件
・自らが居住するための住宅であること
・床面積が50m2以上あること(※)
・合計所得金額が2,000万円以下であること(※)
・住宅ローンの借入期間が10年以上であること
・引き渡しまたは工事完了から6ヶ月以内に入居すること
・1982年以降に建築または現行の耐震基準に適合していること 等

(※)2023年末までに建築確認を受けた新築住宅を取得する場合、合計所得金額1,000万円以下に限り、床面積要件が40m2以上

たとえば、2022年に新築の「省エネ基準適合住宅」取得して入居し、2022年末の住宅ローンの残高が4,500万円あるとした場合、このうちの4,000万円(借入限度額)に対して、0.7%相当額(28万円)が、その年の所得税等から減税されます。減税は13年間に渡って続きます。なお、この間にもローン返済は続くため、年末の住宅ローン残高は徐々に減っていき、年末ローン残高が限度額の4,000万円を下回れば、減税額も減っていきます。

制度内容を見るとわかる通り、この制度は、住宅ローンの借入金額等にもよりますが、省エネ水準の高い住宅ほど、控除額が増えて減税メリットが大きくなり、入居年が遅くなるほど、控除額が減って減税メリットが小さくなるように設計されています。また、新築住宅の「その他住宅」の2024年以降の入居については、住宅ローン控除の適用対象外となります。これらからは、省エネ住宅の建築を促進しようとする国の姿勢が読み取れます。

いつ、どんな省エネ水準の住宅を取得するかによって控除額(減税額)が異なることに注意!

住み替えを前提として住宅を取得する場合、まずは、最初の住宅をいつ取得するか、また、どんな省エネ水準の住宅を取得するかを検討する必要があります。それによって、住宅ローン控除による減税額が異なります。

2025年までに最初の住宅を取得・入居する場合、控除期間は13年間ありますが、途中で新たに住宅を取得して住み替えると、最初の住宅の住宅ローン控除は適用されなくなります。なぜなら、住み替えた時点で、最初の住宅は「自らが居住するための住宅」という要件を満たさなくなるからです。

住み替えのために新たに取得した住宅については、2025年までに入居するのであれば、すでに決まっている住宅ローン控除の内容が適用されますが、入居が2026年以降になる場合、どうなるかは現時点でわかりません。住宅ローン控除が延長されていれば、延長後の内容が適用されます。

なお、住宅ローン控除の適用を受けている最中に、転勤や転職などで、家族を残して単身赴任をする場合は、住宅ローン控除の継続は可能です。しかし、家族全員で転居する場合は、住宅ローン控除の適用は受けられなくなります。ただし、何年か後に自宅に戻ってきた時に、控除期間が残っていれば、あらためて確定申告をすることで、残りの期間の再適用を受けることができます。

住宅ローン控除と「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」の関係に要注意!

住宅ローン控除以外にも、「自宅」にはさまざまな税制優遇制度が設けられています。

たとえば、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例(以下、「3,000万円の特別控除」)」は、自宅を売却した時に、所有期間にかかわらず、譲渡所得から最高3,000万円までを控除できる特例制度です。ひらたく言えば、自宅を売却して儲かった場合、3,000万円までの利益には、所得税や住民税がかからないという仕組みです。この制度の適用を受けるには、その家に住まなくなって3年経過した年の年末までに売却する必要があるなど、一定の要件を満たす必要があります。

自宅の住み替えをする時に、旧住宅を売却して「3,000万円の特別控除」を受け、新居で住宅ローン控除を受けることができれば、節税しつつ有利に住み替えを行うことができますが、2つの制度を重複して利用することはできません。どちらかを選択する必要があります。

具体的には、新居に入居した年と、その前の2年、およびその後の3年(合計6年)の間に、「3,000万円の特別控除」を受けた場合は、新居の住宅ローン控除を受けられません。

2つの制度の適用を受けようとすれば、旧住宅を売却して「3,000万円の特別控除」を受け、その4年後に新居に入居して住宅ローン控除を受けるなどの工夫が必要です。そのためには、旧住宅を売却して新居に入居するまでの約4年間は、賃貸住宅などで生活する必要があり、結果的には負担増になるかもしれません。

住宅ローン控除が2026年以降も延長され、住み替えによって旧住宅の売却で利益が出そうな時は、自宅に関する他の税制優遇制度との関係に注意する必要がありそうです。

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中村 宏 (なかむら ひろし)

ファイナンシャル・プランナー。株式会社 ワーク・ワークス代表取締役。

教育出版社勤務後、2003年にファイナンシャルプランナーとして独立。「お客様のお金の不安を解消する」をモットーに、1,500件を超える個人相談、セミナー講師、雑誌取材、執筆・寄稿等を中心に活動。無料メルマガ「生活マネー ミニ講座」を配信中。著作 「自分のお金の育て方」(祥伝社)、「老後に破産する人、しない人」(KADOKAWA中経出版)。

※執筆日:2022年08月24日