第924回

不動産投資を考えるなら、「将来」を考えて慎重に

不動産投資に興味があります。ローンで物件を購入して、ローン返済には賃料収入を充てれば「大家さん」になれるとのこと。貯蓄があまりない私にも始められそうですが、どんなことに注意すればいいですか。(千葉県 T)
ローンを組んで不動産を購入したら、賃料収入が入らない状況でもローン返済は続き、税金や火災保険料などの諸経費もかかります。「気軽に始められそう」と軽く考えず、まずは不動産投資に関する知識を身につけ、利回りやリスクを慎重に検討してみましょう。

期待した賃料が得られなければ、期待した利回りは得られない

銀行預金等の超低金利が長期化する中、不動産投資物件の広告での「利回り8%」「10%」といった数字は魅力的。また、2021年3月の「月例速報Market Watchサマリーリポート(公益財団法人東日本不動産流通機構)」によると、首都圏の3月の中古マンションの成約件数は4,228件で、前年比+16.1%増、1990年5月の機構発足以来の過去最高の数値とのこと。地域によって違いはあるにしても、不動産市場は活発に動いているようです。「私も大家さんにチャレンジ」という気持ちにもなりますよね。

しかし、高利回りを期待して、安易にローンを組んで不動産投資を始めるのは、大きなリスクがあります。広告に提示されている高利回りは、設定した賃料を払ってくれる賃借人が常にいる場合に限って実現されるのですから。

また、広告に掲載されている利回りがどんな「利回り」か、にも注意する必要があります。下記のように、物件価格と賃料収入のみで計算された利回りと、諸費用を考慮して計算した利回りには大きな差があります。資金計画を立てる際には、諸経費(税金、保険料、リフォーム費用等)やローン負担、空室リスク、賃料の引き下げの可能性等を考慮した「利回り」で考えることが大切でしょう。

不動産投資の「利回り」計算例
投資物件:物件価格6,000万円 購入時の諸費用300万円
年間家賃収入(見込額):480万円  保有中の諸費用(管理費、固定資産税、保険料等):160万円
表面利回り 年間家賃収入÷物件価格×100%=8%
実質利回り (年間家賃収入-保有中の諸費用)÷(物件価格+購入時の諸費用)×100%=5.6%

物件の価値は自然災害や社会情勢などの変化で変わる

築年数が経過している物件は販売価格が下がり、投資金額と賃料との見合いでは相対的に利回りは高くなります。しかし、物件が古いということは修繕費用が相応に発生することが十分考えられ、費用を考慮すると利回りが実は低いという場合もあります。

また、その地域の人気が落ちたりすると、高い賃料を提示したままでは賃借人が見つからず、賃料を引き下げが必要になります。賃借人の身になって考えてみれば、古い物件や不便な物件に、高い賃料は払いたくないですよね。

物件に問題がなくても、自然災害や社会情勢の変化で、物件の人気が上下する場合もあります。たとえば、コロナ禍によってリモートワークが増えた会社員にとって、通勤に便利な狭くても駅に近い物件よりも、駅から遠くてもワークスペースの取れる広めの物件のほうが魅力的ですよね。また、見晴らしのよいリバーサイドの人気物件が、台風や豪雨災害の後は敬遠されることもあるでしょう。

自然災害や社会情勢等の変化で、物件の人気が下がれば、想定された賃料収入は期待できなくなります。近年、「未曾有の」「前代未聞の」出来事が、たびたび起こっています。未来を予測することは難しいですが、賃料収入低下のリスクがあり得ることは考慮して、資金計画は厳しめに立てたいですね。

「賃料保証付き」の賃料は、引き下げられる場合もある

「賃料保証付きの物件なら、空室があっても大丈夫なのでは?」と考える方もおられるかもしれません。一定の賃料が保証される「サブリース契約」は、アパートやマンションなどの賃貸住宅を、家主から一定額の保証賃料でサブリース会社が一括して借り上げ、入居者へ転貸する契約。空室ができても保証があって安心・・・ではありますが、入居者が払う賃料の一部をサブリース会社に手数料として払う必要があり、また、契約後に保証賃料が減額されたり、契約をうち切られたりする場合もあります。業者にとって対応は異なりますが、トラブルになるケースは多く、消費者庁でもサブリース契約に関するトラブルの注意喚起情報を出しています。メリットだけをみて安易に契約せず、契約条件を慎重に検討しましょう。

購入した物件の魅力を高めて賃借人を集めたり、資金計画を綿密に立てて高利回りを実現したりしている不動産投資家も多くいますが、一方、デメリットに気づかずに不動産投資を始めて、ローン返済に行き詰まったり、業者とトラブルになる方もいます。自然災害や社会情勢の変化などの不可抗力で、賃料が得られなくなるリスクもあります。

知識のないまま不動産投資業者の説明を聞くと、メリットばかりに注目してしまい、質問すべきポイントもわからず、後悔することになるかもしれません。安い買い物ではないのですから、まずは不動産投資に関する知識を身につけ、メリットだけでなく、デメリットやリスクについても情報を集め、十分に検討した上で、計画を実行するようにしてください。

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私が書きました

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大林 香世 (おおばやし かよ)

ファイナンシャル・プランナー(CFPR)、一級ファイナンシャル・プランニング技能士、DCプランナー。

大学卒業後、教育系出版社に入社、教材・雑誌編集などを担当。その後、独立系FP会社を経て、2000年春より独立系FPとして、ライフプラン全般の相談業務や雑誌・HPのマネー系コラムの執筆などを行っている。

※執筆日:2021年05月12日