第914回

DX導入で小規模事業者でも税の優遇はある?

飲食店を経営しています。規模は大きくありませんがDXを導入するとどんなメリットがあるのでしょうか? 初期コストを抑えた方法があれば教えてください(千葉県 Tさん)
令和3年度の税制改正大綱で「DX投資促進税制」が盛り込まれました。青色申告法人が対象となり、デジタル技術などの新設や増設にかかる費用の一定額について、税額控除や特別控除が受けられるようになります。事業規模に関わらず生産性の向上を図ることは、今後の事業経営では重要な課題となっています。

DXは大企業だけではなく、小規模事業者の経営にも影響を与える

最近、よく耳にするようになった「DX」。これはDigital Transformation(デジタル・トランスフォーメーション)の略で、ビジネスにおいてはデジタル化によって事業構造の変革を意味します。インターネットの普及によって、さまざまなモノ、コトに、誰でも、どこからでも簡単にアクセスできるようになりました。インターネットを通じて、日本国内のみならず海外の情報も得やすくなり、商品を購入することができるようになりました。ここからもう一段攻めのIT活用を進めようとするのが、DXです。

2018年に経済産業省が公表した「DXを推進するためのガイドライン」では、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。

これは何も大企業に限った話ではなく、小規模事業者であってもDXの導入に対応していくことで、事業を長く続けられる可能性が高くなることが考えられます。たとえば、飲食店であればこのコロナ禍において、フードデリバリーサービスを取り入れたお店は多いでしょう。スマートフォンアプリなどを使って消費者が注文し、自宅まで届けてもらうというシステムもDXを導入した事例と言えるでしょう。事業者がDXを導入することで、消費者の暮らしは変化し、よりよい暮らしを実現することが可能になります。

デジタル技術を導入し事業者の変革を国が後押しするために、税の優遇措置が受けられる「DX投資促進税制」が新設されることになったわけです。

取得価格の30%の特別控除が受けられる新設の税制

DX投資促進税制の適用を受けるためには、今後改正される予定の産業競争力強化法の「事業適応計画」で認定を受けた青色申告法人であることが必要です。

クラウドの利用、レガシーシステムからの脱却、サイバーセキュリティなどを確保するために、ソフトウエアの新設・増設などのデジタル要件と会社の意思決定に基づき、一定以上の生産性向上が見込めるなど企業変革要件があり、認定されると以下の税額控除などが受けられます。
 ◎特別控除:対象となる設備の取得価額×30%
 ◎税額控除:取得価額×3%(グループ外の事業者とデータ連携する場合は5%)
のいずれかを選択適用

※投資額は売上高比0.1%以上、300億円以下

また、税額控除の上限は令和3年度税制改正で新設される予定の「カーボンニュートラル投資促進税制」と合わせて、当期法人税の20%とされています。

税額控除の対象となる設備には、以下のものが挙げられます。
 ◎ソフトウエア
 ◎器具備品
 ◎機械装置

現時点では、DX投資促進税制についての具体的な事例についての情報はあまり多くありませんが、DXそのものについては、導入事例や低予算で利用できるDXサービスなどの情報は得ることができます。税の優遇を受けるためには、今からDX導入の検討をはじめるといいでしょう。

初期費用を抑えるためのサービスの活用とビジネスローンの利用

DXの定義や要件を見ると大ごとに思えてしまいますが、何も高価な設備を導入したりシステム開発を委託したりする必要はありません。

資料をペーパーレス化する、データ管理をクラウド上に変更するといったことは、初期費用にかかるコストはほとんどありません。WEBでの接客やチャットボットによる顧客対応は、すでに多くの企業サイトで見かけるようになりましたが、これらも既存のアプリケーションやシステムサービスを利用することで導入することができます。また、CMRシステム(顧客管理システム)などはクラウド上で管理するため、莫大なコストをかけて設備を導入する必要もありません。初期コストゼロで月1万円程度から始められるサービスも数多くあります。

事業規模やDXに取り組む業務によってかかるコストは大きく異なりますが、中小企業、小規模事業者であれば、身近で簡単な業務に絞ってはじめてみて、効果があればさらに業務改善にDXシステムサービスを利用するなど段階を踏んで導入していくといいでしょう。

ただし、そもそもPCやタブレットなどの購入やネット回線の強化といったところから始めるのであれば、IT導入補助金やものづくり補助金、自治体で導入しているIT化の助成金制度などを利用してもいいでしょう(今年度の制度概要などの詳細は要確認)。公的な補助金・助成金は申請から支給まで時間がかかりますので、早期に対応するのであれば、ビジネスローンを利用するという選択にもなるでしょう。

ビジネスローンであれば、資金使途を自由とする商品が多く、開業資金、運転資金、設備資金など幅広く利用できます。また、審査がスピーディーなので、事業計画を立てる上で早い判断が可能となります。

DXを導入する業務範囲は何か、導入するコストはどのくらいかかるか、導入資金はどうするか、ビジネスローンを利用するなら返済負担は問題ないのか、DX税制の控除は受けられるのか。税の控除だけではなく、こうした一連の流れでどれだけのメリットが期待できるかを十分検討することが大事です。この機会に改めて事業の見直しを考えてみることもいいですね。

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私が書きました

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伊藤 加奈子 (いとう かなこ)

ファイナンシャル・プランナー。

大学卒業後、リクルート(現リクルートホールディングス)に入社。不動産、住宅、マネー情報誌の編集者、マーケティングプランナーを経て2003年独立。フリーランスで各種媒体のエディトリアルアドバイザーを務める。2013年沖縄移住後は、各種WEBサイトに不動産、ライフプラン、マネープランに関するコラムの執筆を中心に活動中。

※執筆日:2021年03月02日