第739回

その入居率と家賃は維持できる? アパート経営のいろは

老後の年金がわりになり、相続税対策にもなるというので、アパート経営を考えはじめました。 低金利の今ならローンも借りやすいと思うのですが、アパート経営の注意点を教えてください。(静岡県 Tさん 53歳)
アパート経営は節税対策にもなりますが、期待した収益が得られなければ、ローン返済にも困ることになりかねません。 安定した経営が継続できるかどうか、慎重に検討しましょう。

節税対策として人気の「アパート経営」

アパート経営のおもなメリットとしては、家賃収入が定期的に得られるほか、節税効果があります。

土地の固定資産税と都市計画税には特例があり、住宅が建っていると固定資産税が最大で1/6、都市計画税が最大で1/3まで負担が減ります。 軽減される面積は1戸ごとに決まっているので、一戸建てよりも、戸数の多いアパートが建っているほうが節税効果は高くなります。

アパート経営による不動産所得は、家賃収入から必要経費を差し引いて求められますが、実際の支出を伴わない減価償却費も必要経費として認められ、その分所得税・住民税負担は少なくなります。 また、不動産所得は給与所得などの他の所得と損益通算できるので、もしも不動産所得が赤字になった場合には、赤字の金額を給与所得等から差し引くことができて税負担を減らす効果があります。

最も注目されるのが、相続税の節税効果です。 財産の相続税評価額が小さいほど相続税額は少なくなります。 土地の場合、更地よりは宅地のほうが評価額は低くなり、宅地にアパートなどが建っていた場合には「貸家建付地」という評価になってさらに評価が低くなります。 また、「小規模宅地等の特例(貸付事業用の宅地等)」が適用できれば、さらに評価は低くなります。

さらにアパートローンを相続した場合には、ローンの残債がマイナスの財産となるので、プラスの財産額から控除することができ、さらに相続税負担を減らすことができます。 ただし、アパート経営がうまくいっていなければ、相続税負担は減らせても、その後のローン返済に苦労することになるかもしれない為、注意が必要です。

入居者が十分確保できないとアパート経営は赤字に

定期収入や節税効果と、魅力の多いアパート経営ですが、家賃をきちんと払ってくれる入居者が確保できなければ経営は成り立ちません。少子高齢化が進む日本では空き家も増えています。

また、アパート建築後年数が経てば、新築時のように入居者を集めるのは難しくなるでしょう。 近隣に同様のアパートができて家賃の値下げ競争になれば、期待通りの収益は挙げられなくなります。 一方、入居率が低くても、税金や修繕費などはかかります。 修繕費などを惜しんで物件の老化・劣化が進めば、いっそう入居者を集めるのは難しくなりますし、その時代のニーズに合わせたリフォームも必要になるかもしれません。アパート経営を考えるなら、入居率は厳しく見積もり、必要経費も十分に考慮しておく必要があります。

民間賃貸住宅入居世帯における住宅の選択理由(平成28年度)  (%)
家賃が適切だったから 55.7
住宅の立地環境がよかったから 47.7
住宅のデザイン・広さ・設備等がよかったから 34.0
昔から住んでいる地域だったから 15.0
親・子供などと同居・または近くに住んでいたから 10.6
信頼できる不動産業者だったから 8.9
子育てに適した環境だったから 8.5
一戸建てだから 6.5
その他 11.1
無回答 0.6

平成28年度 住宅市場動向調査報告書 国土交通省住宅局より

「一括借り上げ」は利用条件をよく確かめて

空室リスクが心配な方に人気のサービスに、不動産管理会社等が提供する「一括借り上げ(サブリース)」があります。 会社によってサービスの名称や具体的な内容・条件は異なりますが、おおむね、建築したアパートを不動産管理会社等が長期間一括して借り上げ、たとえ空室が発生しても一定額以上の家賃がアパートオーナーに支払われる仕組みになっていいます。 その間の入居者の募集業務や契約業務、集金業務、物件の管理業務なども不動産管理会社等が行います。

もちろん、貸し主としての業務を不動産管理会社に任せるのでそのための費用負担は発生しますが、家賃が保証されるのであれば安心、と考えられる方は多いでしょう。 しかし、一般に保証される家賃額は、契約後数年で見直される契約になっています。 家賃保証についてはトラブルになるケースも多く、2016年には国土交通省から「サブリースに関するトラブルの防止に向けて」が通知されています。 この通知には、不動産管理会社はサブリース契約締結前に、将来の借上げ家賃の変動に係る条件を書面で交付し、重要事項として、契約者に対して説明することを義務付けることなどが書かれています。 国土交通省の「賃貸住宅管理業者登録制度」のホームページには、不動産管理業者等の業務状況などもまとめられているので、参考にされるとよいでしょう。

「一括借り上げ」が利用できれば、空室リスクの心配がないわけではありません。将来起こりうるリスクについてどんな対処がなされるかなどのサービス内容の詳細を確かめた上で判断しましょう。

アパートローンは家賃収入で返済する

アパートの購入や建築には、アパートローンを利用します。住宅ローンの場合なら返済はローン利用者の給与収入などから行っていきますが、アパートローンは主に家賃収入で返済していくので、審査の際には本人の年収などだけでなく、物件の構造や収益性も審査されることになります。 住宅ローンの金利と比べると、アパートローンの金利は少し高めです。

アパートローンの返済計画を立てる際には、将来の家賃収入は厳しめに見積もっておきましょう。 新築時に満室になったとしても、将来入居率が5割になれば収入は半分になります。 家賃を7割に下げて入居率を7割に保っても、やはり収入は新築時の約半分になります。 年数が経つほど、修繕費などの経費もかかってくるでしょう。 将来の空室リスクや家賃値下げ、経費増も考慮して、無理のない毎月返済額が設定できるかを確かめた上で、アパート経営やアパートローンの利用をご検討ください。

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大林 香世 (おおばやし かよ)

ファイナンシャル・プランナー(CFPR)、一級ファイナンシャル・プランニング技能士、DCプランナー。

大学卒業後、教育系出版社に入社、教材・雑誌編集などを担当。その後、独立系FP会社を経て、2000年春より独立系FPとして、ライフプラン全般の相談業務や雑誌・HPのマネー系コラムの執筆などを行っている。

※執筆日:2017年08月22日