第500回

お金を「借りる」「借りない」の判断基準は?

マイホームや自動車など高額のものは、いざローンを借りるとなると、恐くなって動けなくなってしまいます。そのわりに、日頃は気軽にクレジットカードでリボルビング払いをしたり、時にはカードローンを使ってしまっています。生活のさまざまなシーンでローンに頼るときの判断基準のようなものがあれば教えてください。(東京 会社員 39歳 K)
ローンには、「借りてもいいローン」と「借りてはいけないローン」があります。それは、ライフイベントや利用目的、さらには、足元の家計の状況や将来の見通しなどによって異なります。自分の状況に応じて判断基準を定め、お金をを借りる場合には、少しでも負担を和らげるためにさまざまな条件を比較検討し、できるだけ有利なものを選ぶようにしましょう。

有利な条件になる借り換えは、「借りてもいいローン」

市場金利は依然として低い水準にあります。さらに近年は、金融機関同士の顧客獲得競争が金利引き下げ競争という形で表面化しており、お金を借りる私たちにとって魅力的なローン商品が出てきています。

現在返済中の住宅ローンがある方は、もっと条件の良い他の金融機関のローンに借り換えて、返済負担を抑え家計にゆとりをもたらすことが可能です。例えば、住宅ローンの「変動金利タイプ」の適用金利は、数年前まではどれも年1%を超えていましたが、いまでは年1%を下回るものがたくさん提供されています。 その他の金利タイプも同様に、借りた時よりも低金利のものが出てきています。さまざまなローン商品を比較検討し、借り換えコストを含めたシミュレーションを行って、今より有利になる場合には、面倒臭がらず速やかに行動を起こすことが大切です。

また、世の中の金利が低い今のうちに、変動金利から固定金利に借り換えておくと、将来金利がアップして毎月の返済額が増える不安から解放されます。もともとあまりゆとりのない家計運営をしている場合には、将来の金利変動のリスクを避けて「安心」を手に入れるため、「変動」から「固定」に借り換えをするのが効果的です。

【参考リンク】

このように「借り換え」が目的のローンは「借りてもいいローン」。ぜひ積極的に行ってほしいものです。借りたら借りっぱなしではダメ。日頃からローンのメンテナンスをして負担を軽くする機会をうかがい、世の中の金利情勢や他のローン商品の特徴に目を配るようにしましょう。

消費増税前の前倒し購入のためのローンは、「借りてもいいローン」

現行5%の消費税率は、2014年4月に8%、2015年10月には10%にアップします。大きな買い物の代表格であるマイホームや自動車などの場合、税率アップに伴う負担増は、数十万円から数百万円にもおよびます。

これを避けるために、もともと今後5年以内くらいにマイホームや自動車など高額な買い物を購入しようと考えている方は、思い切って増税前に購入したほうがいいかもしれません。

【参考例】建築費2,500万円(税別)を全額ローンで返済すると?

 消費税額(5%のとき:125万円、10%のとき:250万円)
金利:年2.0%、返済期間:35年、元利均等返済方式

借入額 毎月返済額 総返済額 差額
2,625万円(消費税率5%) 86,956円 36,521,720円 1,739,129円
2,750万円(消費税率10%) 91,097円 38,260,849円

もちろん、数年間かけて増税分の自己資金を準備すれば、それを頭金にして借入額を増やさないようにすることもできます。しかし、前倒し購入をすると確実に増税分の負担は避けることができます。

上表の場合、借入額の差(税額の差)は125万円ですが、総返済額の差は約174万円になります。利息の支払いのために、元金の差以上に総返済額の差がつくことも認識をしておく必要があります。

【参考リンク】

一時的に必要な教育費は「借りてもいいローン」

子どもの教育費の中でも、入学に伴って一時的に必要な教育費は「借りてもいいローン」です。特に、大学進学の時には、受験料、入学金・初年度授業料、新生活準備費用などのまとまった金額が一時的に必要になります。想定していた金額よりも多くのお金が実際には必要なケースもあります。親としては子どもに満足のいく教育を受けさせたい。返済のメドがつけられそうなら思い切って借りても構いません。

具体的には、国の教育ローンや民間の教育ローンの中から、自分の状況に合う商品の借入条件を比較検討し、できるだけ負担の小さいものを選ぶようにしましょう。奨学金の貸与を検討することも1つの方法ですね。

【参考リンク】

その他、ローンを借りてもいいのは、借りる前に返済プランが具体的にイメージできる場合。たとえば、生活費を補填するために一時的にカードローンを使おうとする時でも、次のボーナスで確実に返済することができるなら「借りてもいいローン」。しかし、返済のあてがない場合は「借りてはいけないローン」です。

返済のメドが立たない惰性のローンは「借りてはいけないローン」

ローンを組む前にぜひとも確認しておきたいのは、「このローンは収入の中から着実に返済することができ、しかも、返済負担のために生活が行き詰まらないか?」ということ。

ローンの返済を、収入や貯蓄から行うことができず、返済するお金を確保するために新たにローンを組むのはゼッタイに避けなければなりません。クレジットカードのリボルビング払いやカードローンが習慣になっている人は、お金を借りる目的があいまいになっており、知らず知らずのうちに多重債務に陥る可能性があるので注意が必要です。

ローンの返済は、働いて稼いだお金の中からちゃんとできるようにしたいものです。返済額を捻出するために、場合によっては生活全般を見直して支出を思い切って削る覚悟が必要です。

先ほど述べた教育費の中でも、毎年かかるお金を工面するためのローンは「借りてはいけないローン」です。毎年必要な授業料や塾代、仕送り代などまでローンに頼ると借金が膨れあがってしまい、家計が破綻する危機を招きかねません。教育ローンに頼るのは入学・進学時の一時的なお金の準備だけに絞り、毎年かかるお金は収入や貯蓄の中から捻出することを第一に考えるようにしましょう。

「借りる」「借りない」を自分で判断する方法は?

「借りてもいいローン」と「借りてはいけないローン」を見極める方法として、チェックリストを作ってみました。以下の10項目のうち、目安として8つ以上あてはまれば、ローンを借りる判断をしても大丈夫。

ローンはうまく使えば便利ですが、ご自身でよく考えて使わないと、家計の破綻を招きかねない恐ろしいものになります。事前にシミュレーションと検討を重ね、明確な目的と、返済に対する強い意志を持って決めるようにしたいですね。

【参考】「借りる」「借りない」チェックリスト

  • □良い条件のローンに借り換えることで負担を軽減することができる。
  • □事前に返済プランを立てて返済期間や毎回返済額を確認し、ムリのない範囲で返済できることがわかった。
  • □借金を返すための借金ではなく、借りるお金の目的が明確になっている。
  • □お金を借りてでも手に入れる価値や必要性がある。あるいはその方が有利だ。
  • □金利タイプの特徴やそれが返済額に与える影響について知っている。
  • □借りる前に、生活費の見直しなどでお金を捻出できないかどうか検討した。
  • □今後の家計収支の見通しが立っており、収入が減る予定や支出が増える予定も想定している。
  • □クレジットカードのリボルビング払いやカードローンの使用が習慣になっていない。
  • □借りる前にいろいろな商品を確認し、条件比較や返済シミュレーションをして、自分の条件にピッタリ合う商品を選ぶことができた。
  • □金融機関からお金を借りる以外の方法(親族からの援助の可能性など)も検討してみた。

私が書きました

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中村 宏 (なかむら ひろし)

ファイナンシャル・プランナー。株式会社 ワーク・ワークス代表取締役。

教育出版社勤務後、2003年にファイナンシャルプランナーとして独立。「お客様のお金の不安を解消する」をモットーに、1,500件を超える個人相談、セミナー講師、雑誌取材、執筆・寄稿等を中心に活動。無料メルマガ「生活マネー ミニ講座」を配信中。著作 「自分のお金の育て方」(祥伝社)、「老後に破産する人、しない人」(KADOKAWA中経出版)。

※執筆日:2012年12月21日