第470回

事業資産を担保にできる「動産担保融資(ABL)」とは?

機械の設計・製作会社を経営しています。受注後、代金回収までが長期間となるため手元資金の確保が難しく、いままでは不動産を担保にした借り入れで乗り切ってきました。ところが、最近の地価の下落で担保不足となり、新たな借入が難しくなってきました。新聞で「動産担保融資」についての記事を読んだのですが、売掛金などを担保にできるそうですね。どんな制度ですか?不動産担保融資とはどういう違いがありますか?
「動産担保融資(ABL)」は、企業の事業価値を構成する資産(売掛金や在庫・原材料等)を担保とする融資制度です。不動産などを担保にできない、将来性ある事業を行う企業に有効な資金調達手段です。

「動産担保融資:Asset Based Lending(ABL)」は、従来、担保とされてきた不動産などに代わり、原材料や在庫、製造装置や仕掛け品、売掛金などを担保とする融資制度です。最近では、担保とする対象が、農産物や機械など広い範囲に広がっています。

動産担保融資はバブル崩壊後の2005年ごろから法制度が整備され、あまり普及が進んでいませんでしたが、最近では日銀が2011年6月にABLを行う金融機関を対象にした低利融資制度を開始したこともあり、各地の金融機関で検討・導入が進められています。

動産担保融資の特徴は「コミュニケーション」

動産担保融資と不動産担保融資との大きな違いは、前述した担保の範囲の広さのほか、借り手・貸し手の関係性にあります。

不動産を担保とした融資の場合は、貸し手が主に評価するのは不動産の担保価値ですから、事業や業績についての理解は決算書や試算表等による限られた情報に限られます。

しかし、動産担保融資の場合は、事業活動に欠かせない資産(原材料や在庫、製造装置や仕掛け品、売掛金など)を担保とするため、貸し手は事業や業績のより具体的な情報を把握する必要があります。また、借入期間中の担保の増減状況の把握も必要なので、借入期間中、借り手は担保(在庫や売掛金等)の増減を定期的に報告しなければなりません。このように、借入の申込みから借入期間中まで密なコミュニケーションがとられることになるので、貸し手の側も担保の状況や業績に関する情報を共有して信頼関係が強化され、業績にあった経営へのアドバイスなども得られることになります。

<動産担保融資の特徴>

  • 1、不動産資産がない企業でも融資を受けられる可能性が高まる
  • 2、貸し手の審査や企業側の登記手続きに一定の時間がかかる
  • 3、貸し手に対して担保にした在庫や売掛金等の増減を定期的に報告する義務がある

動産担保融資の実行まで

動産担保融資も通常の融資同様、貸し手となる金融機関に相談し、融資制度の説明を受けることから始まります。

<動産担保融資の実行までのステップの例>

  • 1、動産担保融資の利用について、金融機関に相談
  • 2、動産担保融資の申し込み
  • 3、担保資産の評価を受ける
  • 4、融資契約を結ぶ
  • 5、担保資産の登記を行う
  • 6、融資の実行

3の担保資産の評価は、取引先との契約書類や受発注に関わる書類等を確認したり、在庫の実物を確認したりして行われるため、一般的には、通常の融資よりも時間がかかります。また、外部の評価会社によって資産の評価が行われる場合は、評価にかかる費用を借り手(企業)が負担する場合もあります。

5の担保資産の登記は、在庫や売掛金等の資産が担保になることを第三者に対して主張するために行う手続きで、在庫等の動産は動産譲渡登記、売掛金等の債権は債権譲渡登記を行います。もちろん、登記を行ったからといって、材料や在庫・設備などが使えなくなるわけではありません。通常の企業活動の範囲では原材料や機械等を生産活動に利用できますし、商品も取引先に販売することができます。売掛金は借り手自身が回収し、運転資金として活用することができます。

万が一、業績が低迷した場合でも、通常はただちに担保を処分するのではなく、まずは過剰在庫の処分等、経営指導や融資条件の変更が行われるのが一般的です。

動産担保融資を利用するメリットがあるのは

では、どのような企業が動産担保融資を利用するメリットがあるのでしょうか?

基本的には、健全な経営を行い、担保に適した資産を持つ企業であれば、動産担保融資の対象となります。在庫や売掛金等の流動資産を多く保有する企業や機械設備等の固定資産の規模が大きい企業は、担保として評価される資産の規模が大きいので、資金ニーズが大きい場合にも融資を受けやすく、利用するメリットが大きいでしょう。また、通常は融資を受けにくい創業まもない企業であっても、売上高の増加にともなって在庫や売掛金が増加していればそれが担保となるため、動産担保融資でなら運転資金を調達できる可能性が高くなります。

このように、動産担保融資は、事業の価値を担保とした融資制度です。審査や登記などの手続きに時間がかかるため、すぐには借りられませんが、不動産などの資産がない企業であっても、事業の価値が高ければまとまった資金を借り入れることができます。ご相談者のように、売掛金や在庫などの事業資産が多く資金ニーズのある会社なら、まずは取扱い金融機関に相談し、活用できないかどうかを検討してみてはいかがでしょうか。

私が書きました

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大林 香世 (おおばやし かよ)

ファイナンシャル・プランナー(CFPR)、一級ファイナンシャル・プランニング技能士、DCプランナー。

大学卒業後、教育系出版社に入社、教材・雑誌編集などを担当。その後、独立系FP会社を経て、2000年春より独立系FPとして、ライフプラン全般の相談業務や雑誌・HPのマネー系コラムの執筆などを行っている。

※執筆日:2012年05月25日