第943回

法人と個人事業主では資金調達の方法に違いがある?

学生時代の友人の中に、会社の経営者や、家業を継いでいる自営業者がいます。いずれも厳しい経済環境の中で苦労しているようですが、なかでも資金繰りが大変なようです。資金調達をする際に、法人と個人事業主で大きな違いがあるのでしょうか。(会社員 30代 埼玉県)
法人でも個人事業主でも資金調達の方法に大きな違いはありません。資金調達は、国や地方自治体などから受け取れる返済の必要がない補助金や助成金、金融機関などからお金を借りて返済義務のある融資(制度融資やビジネスローン)などが一般的です。補助金や助成金を受け取るには一定の要件を満たす必要があり、融資は審査に通る必要があります。いずれにせよ、資金の目的に合わせた活用が大切です。なお、手続き時に提出する書類などについては、法人と個人事業主とでは異なります。

補助金や助成金は、返済義務はないが、一定の要件を満たすことが必要!!

補助金や助成金は、国や地方自治体が、政策を推進する目的で法人や個人事業主の取り組みに必要な資金の一部を給付するもので、実にさまざまな分野で募集されています。特に、コロナ禍の現在は、厳しい経営環境に置かれている事業者が多いことから、事業の継続を支援する補助金や助成金なども設けられています。

例えば、コロナ禍の補助金・助成金としては、「飲食事業者の業務転換支援」、「中小企業等による感染症対策助成事業」、「月次支援給付金」、「営業時間短縮等に係る感染拡大防止協力金」などがあります。

その他の分野では、「IT導入補助金」、「業務改善助成金」、「働き方改革推進支援助成金」、「両立支援等助成金」、「キャリアアップ助成金」、「中途採用等支援助成金」、「受動喫煙防止対策助成金」など、多様な種類が用意されています。

補助金・助成金は返済義務がないため、自分の事業や目的に合致したものがあるようなら積極的に活用したいものです。ただし、予算措置となっているため、申請期間は限定され、必要な費用の全額が給付されるわけでもありません。事務局などの審査によって、給付の可否や金額などが決定されます。法人に限定し、個人事業主を対象にしないものもあります。申請方法や提出書類は、補助金などによってさまざまです。法人、個人事業主によっても異なります。詳細は事務局のウェブサイトなどで確認する必要があります。

制度融資やビジネスローンでお金を借りる時は、審査に通る必要がある!!

制度融資は、地方自治体と公的機関である信用保証協会と金融機関の三者が連携して中小企業や個人事業主をサポートする融資制度です。自治体が信用保証料の一部を補助したり、金融機関への利払いを軽減したりすることで、利用者の負担が軽減されます。融資を受ける前に審査に通る必要はありますが、保証協会が信用保証をしてくれるため、万が一返済ができなくなった場合は代位弁済をしてもらえます(ただし、その後、保証協会に対して借入金の返済をする必要があります)。

資金の用途としては、法人および個人事業主向けの運転資金、設備資金などの一般的な融資の他、創業資金、販路開拓資金、事業承継の前後に必要な資金、借り換え資金、働き方改革(テレワークや時差出勤)や女性活躍に向けた職場環境整備に伴う資金、サイバーセキュリティー対策資金などのように用途を限定したもの、個々の自治体の政策を推進するものなど、さまざまな融資メニューが用意されています。法人に限定したものもあります。現在は、コロナ禍に対応したものもあります。利用するには、それぞれに定められている要件を満たし、審査に通過する必要があります。申請方法や提出書類は、融資メニューによって、また、法人、個人事業主によっても異なります。

制度融資は、比較的長期で低金利の借り入れができるメリットがあります。一方、自治体の窓口で利用の相談をした後、指定の金融機関への融資の申込み、信用保証協会の保証などを経るため、融資が実行されるまでに数ヶ月の時間がかかる場合があり、事業者の経営の状況によってはデメリットになる可能性があります。

短期間で資金調達をしたい場合には、さまざまな民間金融機関が取り扱っているビジネスローンを活用する方法があります。種類は豊富で、法人専用のもの、個人事業主専用のもの、担保が必要で比較低金利のもの、無担保で審査回答期間が短いもの、借入期間が短期のもの、長期のもの、変動金利型・固定金利型など、さまざまです。

法人も個人事業主も、手続きの基本的な部分の違いは大きくありませんが、提出する必要書類は異なります。金融機関によっても異なりますが、たとえば、契約者の違いに応じて、法人の場合は、代表者本人を確認する書類、商業登記簿謄本、決算書原則2期分などが必要で、個人事業主の場合は、本人確認書類、確定申告書類原則1期分などが必要です。

種類が豊富なだけに、ビジネスローンを借りるときには、借入条件をしっかりと吟味・検討した上で、できるだけ有利なもの、負担の軽いものを選択する必要があります。

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中村 宏 (なかむら ひろし)

ファイナンシャル・プランナー。株式会社 ワーク・ワークス代表取締役。

教育出版社勤務後、2003年にファイナンシャルプランナーとして独立。「お客様のお金の不安を解消する」をモットーに、1,500件を超える個人相談、セミナー講師、雑誌取材、執筆・寄稿等を中心に活動。無料メルマガ「生活マネー ミニ講座」を配信中。著作 「自分のお金の育て方」(祥伝社)、「老後に破産する人、しない人」(KADOKAWA中経出版)。

※執筆日:2021年09月17日