第63回

住宅ローン変動金利の今後の見通しは? 金利上昇に備える3つのポイント

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この記事のポイント
  • 住宅ローンの変動金利型の適用金利決定方法を把握しよう
  • 今後の住宅ローンの変動金利について見通しを確認しよう
  • 住宅ローンの変動金利の上昇リスクに備える方法を確認しよう
5つの家の模型と手のひらに乗っている家の模型の画像

「住宅ローンの変動金利は今後、上昇に転じるのだろうか」と不安な方は多いのではないでしょうか。2023年10月に開かれた植田和男総裁率いる金融政策決定会合では、短期金利においては現状の金融緩和策を継続することが決められました。そのため当面、変動金利は上昇しないとみられています。しかし好景気や物価上昇にともなって、金利上昇の可能性があることに変わりはありません。思わぬ金利の動きに惑わされないよう、正しい知識を身につけて備えておきたいものです。そこで本記事では、変動金利の上昇に備えるため、住宅ローンの変動金利の「変動要因」「現在の水準」「今後の動き」についてご紹介します。

住宅ローンの変動金利はどう決まる?

変動金利型の住宅ローンは、借入期間中に金利が変動し、定期的に月々の返済額に見直しが入るタイプの住宅ローンです。固定金利型に比べて低い金利で利用できるため、多くの住宅ローン利用者が変動金利型を選択しています。

日銀の超低金利政策によって、住宅ローン金利の水準は歴史的な低さになりました。中でも変動金利は、マイナス金利政策の影響で1%を切る水準が続いています。結果、新規契約者の7割が、変動金利を選んでいます。

まずは、住宅ローンの変動金利の仕組みからみていきましょう。

変動金利は短期金利の影響を受けやすい

多くの金融機関は、変動金利を決める際に「短期プライムレート」を参考にしています。

「短期」とは、主として1年未満を意味し、「プライムレート」とは、返済能力が高いとされる優良企業に対する最優遇貸出金利を意味しています。

つまり短期プライムレートとは、返済能力が高いと評価される優良企業に対して、1年未満でお金を貸し出す時の金利という意味です。

銀行は貸し出すお金が足りなかった場合、どこからか資金を調達する必要があります。その一つの方法が、お金が余っている他の銀行から借りてくることです。この金利は、銀行間の需要と供給で決まります。短期プライムレートは、この銀行間の金利をもとに決まります。

そして、短期プライムレートは、日銀が定める政策金利の影響を受けます。日銀は銀行から当座預金を受け入れており、その一部に対して政策金利が適用されます。つまり、政策金利が低下した場合、他の金融機関に資金を貸し出す動機付けとなり、供給過剰から銀行間取引の金利低下要因となります。

このように短期プライムレートに対する影響が大きい銀行間の貸し借りの市場で、政策金利への誘導を図ろうとするので「変動金利は政策金利の動向が反映される」と言われるわけです。

ただし、現在の日本においては銀行の収益の観点から引き下げ余地が無く、2009年1月以降、政策金利がマイナス金利に低下しても短期プライムレートの最頻値は1.475%から下がっていません。

住宅ローンの変動金利型の適用金利決定方法

実際の変動金利は各行が独自に定めています。

金融機関は、まず、住宅ローンの定価に当たる「基準金利(店頭金利)」から決めます。基準金利は、短期プライムレートに一定幅を上乗せする方法で決められ、一般に1%程度が上乗せされます。短期プライムレートが1.475%とすれば、住宅ローンの変動金利は2.475%となるわけです。

もっとも、実際には定価にあたる基準金利で借りる人はほとんどいないでしょう。他のモノやサービスと同様、定価があれば、割引サービスもあるからです。

それが「引き下げ金利(優遇金利)」と言われる金利です。基準金利から引き下げ金利を引いたものを「適用金利」と言います。

基準金利(店頭金利) - 引き下げ金利(優遇金利) = 適用金利

住宅ローンの広告などで打ち出されている「金利0.475%」といった低い金利が、この適用金利です。ただし、「0.340%~2.475%」のように幅のある金利のうち下限金利は銀行が定める条件を満たした信用力のある利用者に対する最優遇金利です。優遇条件を満たしていない場合や審査結果によっては、それより高い金利が適用されることがあります。

なお、引き下げ金利は次の2種類に分類されており、引き下げを受けられる期間と引き下げ幅が異なります。

  • 全期間引き下げ
  • 当初期間引き下げ

全期間引き下げでは、住宅ローンの借入開始から完済までの期間を通して、一定の引き下げを受けられるタイプです。一方の当初期間引き下げは、一定の返済期間のみ引き下げが適用されますが、全期間引き下げに比べ期間中の引き下げ幅が大きく設定されます。

現在の住宅ローンの変動金利は過去最低水準

大手銀行における短期プライムレートは、2009年1月から変わらずに1.475%を維持し続けています。これは過去最低水準であった1999年3月~2006年8月の間に2度記録した1.375%をわずかに上回る程度の金利であり、歴史的に見ても非常に低い水準です。

この短期プライムレートが低水準で推移する状態にともない、大手銀行が扱う住宅ローンの変動金利型の基準金利も2.475%のまま、2023年まで約14年間変化していません。

短期プライムレートが低水準で推移している理由は「日銀の金融緩和政策」により、前述の通り政策金利の影響を受けているためです。

日銀は「安定的かつ持続的な物価には前年比2%の消費者物価指数の成長が理想」という考えを示し、デフレ脱却と景気回復のため金融緩和政策を推進しています。金利を低くすれば、企業は投資をしやすくなり、個人は家など高額品も買いやすくなります。それによって経済が活発化し、モノの値段も上がっていくことが期待できるのです。

そのため、日銀は短期の政策金利をマイナス0.1%に設定し続けています。その結果、短期プライムレートが政策金利に連動し、低水準のまま推移するという結果になっています。

2023年の消費者物価指数は各月において軒並み前年比3.0%を超えています。しかしこの物価上昇は原油価格高騰や円安の影響によるものであるため、企業の売上の増加が賃上げに結びついていないと評価し、日銀は金融緩和政策を継続しています。

変動金利が過去最低水準となっているもうひとつの理由は「銀行間の金利引き下げ競争の激化」です。各行とも住宅ローン利用者の囲い込みのため、変動金利の優遇金利の引き下げが繰り返されています。特に近年は競争が加速している状況で、適用金利を0.3%以下とする銀行も登場しました。

加えて無視できないのが、最長35年の全期間固定金利型の住宅ローン「フラット35」の台頭です。最長35年間、保証人不要で住宅資金の融資を受けられるフラット35は直近10年においては平均1.4%程度の低金利で推移しています。

  住宅ローン 変動金利
※2.0%の優遇金利適用後
フラット35 最低金利
※借入期間21年以上35年以下
2014年1月 0.475% 1.800%
2015年1月 0.475% 1.470%
2016年1月 0.475% 1.540%
2017年1月 0.475% 1.120%
2018年1月 0.475% 1.360%
2019年1月 0.475% 1.330%
2020年1月 0.475% 1.270%
2021年1月 0.475% 1.290%
2022年1月 0.475% 1.300%
2023年1月 0.475% 1.680%

日本銀行「長・短期プライムレート(主要行)の推移 2001年以降」、フラット35「【フラット35】借入金利の推移」より筆者作成
フラット35を含む住宅ローンの固定金利は日本の長期金利(新発10年国債の利回り)の動きに従うため、直接的な関係は無いものの、競合商品として変動金利の適用金利引き下げ要因の一つであると考えられます。

住宅ローンの変動金利は今後どうなる?

金利の矢印の上に3人のスーツの男性が乗っている画像

日銀は2023年7月の金融政策決定会合で「長期金利の上限を引き上げる」政策修正をしました。その結果、長期金利は上昇基調になり、長期金利に連動する住宅ローンの固定金利はじわじわと上昇しはじめました。
変動金利も、いずれは上昇するのか、予想してみましょう。

当分は金融緩和策の維持が見込まれる

日銀は2023年9月の金融政策決定会合において、現状の金融緩和策を継続する見通しを発表しました。同年10月末に行われた会合では、長期金利1%を「上限」から「目処」に変更するという方針を打ち出しましたが、短期金利においては大枠の方針を維持する姿勢を継続しています。

長期金利と短期金利は決まり方が異なるため、長期金利が上がったからといって短期金利も連動して上がるわけではありません。そのため、日銀が2023年11月現在までに発表している情報からは直近の短期金利引き上げは予想できず、変動金利の上昇も考えにくいといえるでしょう。

また日本では住宅ローンを変動金利で組んでいる人が圧倒的に多いので、変動金利が上昇すればローンが払えなくなる人が続出するでしょう。そうなれば景気は一気に冷え込む可能性があるので、簡単には手をつけられないとの見方もあります。

景気動向などによっては上昇する可能性も

もちろん、景気動向などによっては、日銀が政策金利を引き上げる可能性はあるでしょう。無理な低金利政策を続ければ、社会にひずみが出るからです。住宅価格が上昇し続けているのも、その一つです。金融緩和で余った投資マネーが住宅市場に流れ込み、一般の人が購入をためらうほど住宅価格を押し上げました。また、日本と欧米等の金利差が広がる中で、円の魅力は薄れ、猛烈な円安を招き、日本は物価高にあえいでいます。

こうした中で、銀行同士で住宅ローンの変動金利の引き下げ競争を続けても、金利は下がりきっているのでインパクトは限られる上に、銀行の体力をじわじわと奪っていきます。

こんなことが永久に続くはずはないでしょう。

当の日銀は、一連の金融緩和策を続ける目的である物価安定の目標を「物価上昇率が安定的に2%になるまで」と決めています。今後、春闘などの結果も踏まえて、日銀が目標の実現を見通せれば、「まずマイナス金利政策の解除から検討が始まる」といわれています。安定的に物価が上昇していけば、次はゼロ金利政策の解除と、少しずつ利上げをしやすい環境を整えていくはずです。

景気動向や住宅市場の傾向によって、将来的には変動金利が上昇する可能性も十分考えられます。その時に備えて、準備をしておく必要はあるでしょう。

変動金利の上昇リスクに備える3つのポイント

女性が人差し指を立てている画像

住宅ローンは数年から数十年の間返し続ける必要があります。長い返済期間の間に世界情勢や景気が変わり、変動金利が上昇するかもしれません。上昇した金利に圧迫されローンの返済に苦しまないよう、3つのポイントを意識してリスクに備えましょう。

(1)借入金額を少なく設定する

住宅ローンの返済に付随する利息は元本の額に比例します。借入額が小さいほど支払う利息の額が減りますので、できるだけ住宅ローンに頼らない物件の購入プランを立てましょう。

特に変動金利が上昇すると、元本の残額が多いほど支払う利息が増え、返済総額が大きく増加するおそれがあります。ローンを組んだタイミングでは低金利だったとしても、十数年後に金利が上がるケースも考えられます。金利の上昇が原因で返済できなくなるといったことにならないよう、頭金を多めに入れて借入額を減らすか、多額のローンを組まずに購入できる物件を選ぶといった対応が望ましいでしょう。

(2)こまめに繰上返済をする

住宅ローンは毎月の約定返済だけでなく、任意のタイミングで返済をする繰上返済が可能です。ボーナスが出たタイミングなど資金に余裕があるときに繰上返済をしておくと、変動金利の上昇による影響を受けにくくなります。

住宅ローンの繰上返済には「期間短縮型」と「返済額軽減型」の2種類があります。期間短縮型は毎月の返済額を変えずに返済期間を短縮。返済額軽減型は返済期間を変えずに毎月の返済額を減らせます。

どちらの方法で繰上返済を行ってもよいですが、住宅ローン控除を利用している方は注意が必要です。住宅ローン控除は10年以上の住宅ローンを組んでいる場合に、最大13年間(中古は10年間)ローンの年末残高×0.7%分を所得税から控除できる制度です。繰上返済により住宅ローンの残高が減少すると、控除額も小さくなります。また、期間を短縮した結果、残りの返済期間が10年未満になると控除の対象外となりますので、タイミングには気を付けましょう。

(3)借り換えを検討する

変動金利の大幅な上昇に備え、より金利の低い住宅ローンへの借り換えもよい対策です。借り換え先は固定金利が候補に挙がりますが、一般的に変動金利が上昇する状況では固定金利はさらに上昇すると予測されるため、将来金利が上がってからでは手遅れとなる可能性が高いでしょう。

その他の有効な借り換え先として考えられるのは、同じ変動金利で低金利の住宅ローンです。借り換え先は低金利を売りにする他行の住宅ローンだけでなく、同じ銀行が提供する別のプランも候補に挙がるでしょう。

なお、住宅ローンの借り換えの際には、事務手数料や保証料、登記のための司法書士報酬といった費用がかかります。残りのローン残額によっては、金利が下がる効果以上に諸費用がかかってしまい、かえって返済総額が増えることも。借り換えの手間を掛けて損をしたということにならないよう、十分なシミュレーションを行いましょう。

まとめ

住宅ローンの変動金利は、日銀が金融緩和策の継続を決定したことにより、当面は現状維持のまま進むと考えられます。しかし景気動向によっては予期せぬ変化も起こり得ますので、いつ金利が引き上がっても困らないような準備が望まれます。

金利上昇の影響を抑えるための対策として考えられるのが、借入金額の低減や積極的な繰上返済、低金利ローンへの借り換えといった方法です。住宅ローンは何十年と付き合い続けるものです。どのような時でも支払いが必要以上に生活の負担にならないよう、変化に備えた返済プランを立てておきましょう。

住宅ローンの返済に興味がある方はぜひこちらのページもご覧ください。

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ライター紹介

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手塚 裕之 (てづか・ひろゆき)

2級ファイナンシャル・プランニング技能士

都内ゲーム会社に12年勤務後、2018年12月にフリーライターとして独立。個人事業主としての開業を機に、金融・年金・不動産などのFP領域への関心を深める。毎年iDeCoと小規模企業共済の掛金を増額中。好きなものはふるさと納税。

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