第484回

事業者向けの不動産担保ローンは赤字決算や本人名義でなくても借りられる?

2年前に親から事業を引き継いで小さな会社を経営しています。資金繰りや設備投資のために、不動産担保ローンを借りることを検討していますが、私の代でははじめての借り入れになるので仕組みが十分にわかっていません。実をいうと会社の直近の決算は赤字です。また、不動産は母親名義で、しかもすでに抵当権が設定されています。こんな状態でも借り入れをすることができるのでしょうか。(会社経営 46歳)
不動産担保ローンは、無担保のビジネスローンなどと比較すると、「高額」、「長期間」、「低金利」での借り入れが可能なため、運転資金や投資資金の借り入れには適したローンです。金融機関によって異なるさまざまな条件や特徴をしっかり理解して、有利に借り入れ、資金を有効に活用するようにしてください。

決算が赤字でも、不動産の名義が本人でなくても借入ができる!?

不動産担保ローンは、担保となる不動産の価値が融資の審査基準の柱になります。ここでいう「不動産の価値」とは、不動産の購入価格のことではありません。たとえば、5,000万円で購入した不動産の担保評価額が5,000万円、融資限度額も5,000万円ということにはなりません。担保評価額や融資限度額は、実際にその不動産が取引される時価よりも低く評価されます。なぜなら、融資期間内に不動産の価値が下落するリスクがあるためです。金融機関にとっては、万が一融資期間内に返済が滞った場合でも、不動産を競売にかけることによって貸したお金を回収できるようにしておく必要があります。

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不動産の価値が融資の審査基準の柱であるため、会社の直近の決算が赤字でも、今後の見通しがついている場合には融資を受けられるケースが少なくありません。

不動産の名義については、金融機関によって、原則自社や本人名義のものでなければならないところもあれば、そうでなくてもよいところもあるため、条件に合う金融機関を選ぶ必要がありそうです。ちなみに、「SAIS◎Nのローン百選 事業者向け 『不動産担保ローン』」は、担保不動産の所有者が法人、代表者本人、または代表者の親族までであればよいとしています。「不動産担保ビジネスローン(東京スター銀行)」 は、自社や代表者本人名義でなくてもよいとしていますが、代表者の連帯保証が必要で、場合によっては担保提供者や物件共有者が保証人になる必要があります。

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すでに抵当権が設定されている不動産でも借り入れはできる

過去に不動産に抵当権が設定され、すでに融資を受けている場合、同じ不動産を担保に新しい融資を受けることができるかどうかも、金融機関の審査条件によります。しかし、常に第1順位の抵当権でなくては融資を受けられないということではなく、担保不動産の評価によっては第2順位以下でも借りることが可能です。先にご紹介した「SAIS◎Nのローン百選 事業者向け 『不動産担保ローン』」や「不動産担保ビジネスローン(東京スター銀行)」は、抵当権の順位は問わないとしています。

なお、過去のローンの返済が現在も続いている場合には、それらをまとめて借り換えて、新規のローンに一本化する「おまとめローン」にすることもできます。そうすれば設定されていた抵当権を抹消して新しいローンに一本化することができます。また借り換え時に、これまで高い金利で借りていたローンを、低い金利の新しいローンに切り替えて返済額を軽減できる場合もあります。

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返済が滞った時には不動産が競売にかけられることに注意

不動産担保ローンは、他の無担保ローンと比較すると有利な点が多いのですが、万が一返済ができなくなった時には、不動産が競売にかけられることに注意する必要があります。

そのため、有利だからといって融資限度額いっぱいまで借りると返済が大変になります。借入額は、資金繰り計画や将来の事業計画を精緻に作成した上で、その時点の必要最低限にとどめ、無理な借り入れはしないようにするのが賢明でしょう。

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中村 宏 (なかむら ひろし)

ファイナンシャル・プランナー。株式会社 ワーク・ワークス代表取締役。

教育出版社勤務後、2003年にファイナンシャルプランナーとして独立。「お客様のお金の不安を解消する」をモットーに、1,500件を超える個人相談、セミナー講師、雑誌取材、執筆・寄稿等を中心に活動。無料メルマガ「生活マネー ミニ講座」を配信中。著作 「自分のお金の育て方」(祥伝社)、「老後に破産する人、しない人」(KADOKAWA中経出版)。

※執筆日:2012年08月31日