第776回

人手不足や効率化が課題なら「省力化投資」を考える!

地方で小さな会社を経営しています。 近年の景気回復によって売上を伸ばすチャンスなのですが、人手不足のため仕事の増加に合わせてヒトを確保するのが容易ではありません。 また、確保するには賃金を上げざるを得ず利益が縮小しそうで、どうしたらよいか迷っています。 なにかヒントがあれば教えてください。(47歳 会社経営)
少子高齢化等の影響で人材獲得競争が激化し、特に中小企業での人手不足は今後も続く見通しです。 また、賃金を上げないとヒトが採用できず、売上増に応じた利益の確保が困難になっています。 とはいえ、人手が足りないことを理由に仕事を断るのは経営者として辛いことでしょう。 人手不足や経営効率化を解決する手段のひとつとして、発想を転換し、長期的な視点でIT、ロボットなどを活用する「省力化投資」を検討してはいかがでしょうか。

人手不足のために賃金は上昇しても、製品・サービス価格には転嫁できない現状

景気の回復や少子高齢化の進展などに伴って、労働需給が逼迫し、企業の人手不足感が強まっています。 2017年の完全失業率は2.8%と、23年ぶりに3%を下回りました。これは働く意思があれば誰でも職に就ける「完全雇用」の状態であることを示していますが、企業側からみると、ヒトを採用することが難しくなっていることを示しています。

2018年1月に財務省が公表した「財務局調査による『人手不足の現状及び対応策』について」によると、企業の人手不足感は正規社員・非正規社員に問わず強まっており、人手不足と回答した割合は、1年前の67.0%から71.0%に上昇しています。 新規採用が進まないことは既存従業員の負担増につながるため、経営者は、既存従業員に対しても、長時間労働の是正や短時間勤務制度の導入等の勤務体系の多様化・柔軟化、あるいは、賃金等の引き上げ等の待遇改善に取り組む必要に迫られています。 一方で、人手不足の解消に向けた取り組みによって生じるコストを製品・サービス価格に転嫁できていない企業は87%を占めています。

人手不足の解消や効率化をするには「業務プロセスの見直し」や「省力化投資」もある!

人手不足を解消する手段として、短期的には、会社説明会等の活動促進や、初任給の引き上げ、採用要件の多様化・柔軟化、女性・高齢者の採用など、採用活動の取り組みを強化することが必要です。 しかし、同時並行して、長期的な視点に立って、業務プロセスの見直しや、省力化投資なども検討し、実行する必要があります。

業務プロセスの見直しには、次のような施策があります。

業務の標準化・平準化
過剰な業務の見直し
関係各所との連携
組織体制・人員配置の見直し など

これらのことを仕事の中にしっかりと位置づけて習慣化し、業務内容や業務量、業務の品質に応じて常に改善を図っていく姿勢を堅持することが大切です。

省力化投資には、ITの利活用や設備投資などがあります。

ITツールには次のようなものがあります。

一般のオフィスシステム(ワード、エクセル等)
電子メール
給与・経理業務のパッケージソフト
調達、生産、販売、会計などの期間業務統合ソフト
電子文書(注文・請求書)での商取引や受発注情報管理
グループウェア(スケジュール・業務情報共有やコミュニケーション)

設備投資は、業種などによってさまざまでしょう。

たとえば、製造業の場合は、生産を支援するロボット、免許が必要なフォークリフトを代替し女性やお年寄りでも簡単に使える電動式のハンドリフト、梱包や箱詰め支援ロボットなどの導入があります。 スーパーなどの小売業では無人レジ、介護業界では介護ロボットや見守りセンサなどを導入する方法もあります。

経営者は、自分の会社にどのような設備を導入すれば効果的かを検討できるように、省力化や効率化を推進する担当者や担当部署を定めるなどして、日頃から組織的に情報収集を行うようにしておいたほうがいいでしょう。

初期投資が必要な場合は、必ず費用対効果をシミュレーションして決める!

ITの利活用や設備投資には、初期投資としてある程度まとまった金額が必要になります。 そのため、必ず、検討段階で費用対効果をシミュレーションした上で意思決定をすることが大切です。 たとえば、設備を導入するための初期投資が1,000万円必要で、従業員1人分の業務効率改善ができるとすると2~3年で初期投資が回収できる計算になる、ということを考えるのです。

投 資資金の調達に関しては、国の補助金があれば積極的に活用するようにしましょう。 また、金融機関から融資を受ける場合には、複数の金融機関の条件を詳細に比較検討して、できるだけ有利なものを選ぶようにしましょう。 なお、融資資金で投資をする場合には、返済計画を含めた精緻な効果シミュレーションを検討段階で行い、考えうるリスクを見極めて慎重に意思決定するようにしましょう。

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中村 宏 (なかむら ひろし)

ファイナンシャル・プランナー。株式会社 ワーク・ワークス代表取締役。

教育出版社勤務後、2003年にファイナンシャルプランナーとして独立。「お客様のお金の不安を解消する」をモットーに、1,500件を超える個人相談、セミナー講師、雑誌取材、執筆・寄稿等を中心に活動。無料メルマガ「生活マネー ミニ講座」を配信中。著作 「自分のお金の育て方」(祥伝社)、「老後に破産する人、しない人」(KADOKAWA中経出版)。

※執筆日:2018年05月09日