第908回

非常時を想定した、これからの住宅ローンの組み方

新築マンションの購入を検討しています。新型コロナウイルスの影響は今のところなく、収入も以前と変わっていませんが、住宅ローンを借りて返済していく不安はあります。これから借りるとしたら、どんなことに注意すればいいでしょうか?(神奈川県 Kさん)
コロナ禍によって収入減、ボーナス減で支払いが困難になった方は少なからずいます。災害時のローンの支払いも不安に思われるかもしれません。これから借りるのであれば、非常時に利用できる制度を知っておくことと、過剰な借り入れをしないことが一番大事です。

当面の支払い猶予は条件変更を。被災ローン減免制度もある

金融庁がまとめたデータによると、令和2年3月10日~11月末までに住宅ローン返済の条件変更の申込みは3万2430件で、そのうち2万5365件の条件変更が実行されています。今回の新型コロナウイルス感染症拡大の収束が見通せず、ボーナスでの収入減などによる条件変更の申込者は、さらに増える可能性があります。

条件変更によって1年の元本据置や返済方法の変更を行ったとしても、収入が以前の状況に戻らなければ住宅ローンの支払いが困難であることに変わりはありません。

東日本大震災の際には「個人債務者の私的整理に関するガイドライン(被災ローン減免制度)」が利用できることになり、二重債務を防ぐとともに法的な破産手続きによらず、債務の減免を受けることができました。今回のコロナ禍で返済が困難になった場合もこの制度を利用することができます。ガイドラインの要件を満たし、専門家によって弁済計画が立てられます。ただし、金融機関の同意が得られなければ債務整理は不成立になりますので、必ずしも債務の減免が受けられるとは限りません。

返済が困難になったら放置せず、借入金融機関に即座に相談することが重要です。万一のときはこうした制度があることも知っておくといいでしょう。

返済額の年収割合は20~25%にとどめ、借入しすぎないこと

住宅ローンを借りる際、銀行の審査基準に年収に対する年間返済額と返済負担率があります。たとえば、住宅金融支援機構のフラット35の場合、年収が400万円未満は30%以下、400万円以上は35%以下となっています。一般的な銀行では、年収100万円以上300万円未満は20%以下、年収300万円以上450万円未満は30%以下、年収450万円以上600万円未満は35%以下、年収600万円以上は40%以下などとなっています(金融機関によって異なります)。

仮に年収600万円であれば、その40%、年間返済額240万円までであれば、基準をクリアします。しかし、年間240万円でボーナス返済なしだとすると、毎月の返済額は20万円となります。年収600万円といっても実際には税金や社会保険料が差し引かれ、手取りは460万円程度です。毎月の手取り約38万円のうち、20万円が住宅ローンの返済に充てられるというのは現実的ではありません。

たとえ銀行の審査基準を満たすとしても、返済負担率は、20~25%にとどめるようにしたいものです。さらに、今後はコロナなどの不確定要素の発生を考慮すると、銀行側の審査基準もシビアになってくる可能性があります。現時点では収入への影響はなくとも、長い返済期間の中で、何が起きるかわかりません。自然災害や未知のウイルスは不可抗力ですが、個人的な理由による返済リスクについては、できるだけ多くのことを想定し、無理のない借り入れ、返済計画で臨むことが重要です。

できるだけ毎月返済のみとし、ボーナスはプラスアルファで考える

昨今の住宅ローン金利の低下によって、借入可能額はひと昔前より増えています。そのこと自体は、住宅選びの選択肢が広がるため喜ばしいことですが、本来の返済能力以上の借り入れをしがちです。住宅ローンは「いくらまで借りられるか」ではなく、「いくらまでなら返せるか」で考えることが基本です。これはどんな時代になっても変わりません。

ボーナス返済に頼ることなく、毎月返済だけでいくらまでなら無理なく返せるかを計画時点で考え、ボーナス返済は借入額の何割ではなく、ボーナスから5万円、10万円までなら大丈夫、というように組み換えすることです。できれば毎月返済のみで借り入れをし、ボーナスで余力があれば一部繰り上げ返済に回すという方法のほうが、リスクを抑えることができるでしょう。

また、返済期間については35年返済で組む場合、定年退職後も返済が続き、退職金を住宅ローンに充てるといったケースも多く見られます。退職金が確実に見込めるのであればいいですが、35年後にどうなっているかは確約できないでしょう。できるだけ60歳、65歳までに完済できるような返済計画を立てるようにしましょう。もしも返済が困難になった場合、35年返済への返済延長も可能になります。

これからの住宅ローンの組み方は、基本は変わらずともバッファーのあるプランニングこそが、リスク対応の最善策となるでしょう。

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伊藤 加奈子 (いとう かなこ)

ファイナンシャル・プランナー。

大学卒業後、リクルート(現リクルートホールディングス)に入社。不動産、住宅、マネー情報誌の編集者、マーケティングプランナーを経て2003年独立。フリーランスで各種媒体のエディトリアルアドバイザーを務める。2013年沖縄移住後は、各種WEBサイトに不動産、ライフプラン、マネープランに関するコラムの執筆を中心に活動中。

※執筆日:2021年01月19日