第660回

日銀のマイナス金利導入でローン金利はどうなる?

「マイナス金利」が導入されるそうですが、住宅ローンをはじめとするローン金利にどんな影響があるのでしょう?(Jさん 会社員 31歳)
2月16日に導入される日銀のマイナス金利政策。現状では、個人に関して銀行に預けておくと預貯金がマイナスになるということはなさそうです。マイナス金利の影響で、各種ローンの金利は下がるとみられています。

マイナス金利政策とは?

2016年1月29日、日銀の「マイナス金利政策」の導入が発表されました。これは、金融機関が中央銀行である日銀に資金を預ける際の「当座預金」の金利を、2月16日以降は、一部マイナス0.1%にするというものです。これまでおおむね0.1%の金利が付いていたものが、残高を3つに分けそれぞれ0.1%、0%、マイナス0.1%の金利が付けられることになります。

マイナス金利が適用されるのは2月16日以降に増える残高分ですが、日銀に預けておいて金利をとられるのは金融機関にとっては損なので、企業や個人への貸し出しを増やしたり、投資に回そうとするはずです。

その後、融資を受けた企業が積極的な設備投資を行い、企業収益が上がれば賃金も上がり、賃金が上がれば消費も促進されて、景気回復や物価上昇につながるはずという期待があります。また、金利が下がることで、個人がローンを借りて住宅など大きなものを買ったり、あるいは預金金利が低下し、預金よりも投資へとお金を回す機運が高まることでも、景気回復へベクトルが向くことが期待されます。マイナス金利政策によって世の中へお金が回り、消費や投資が活発になって景気回復や物価上昇を促進することこそが、日銀の狙いなのです。

デメリットは預金金利の低下

いよいよ始まる「マイナス金利政策」ですが、我々の生活にどう影響するのでしょうか。

まずデメリットとしては、預金金利の低下です。マイナス金利政策の発表後すぐに普通預金の金利を0.001%まで下げた銀行もありました。定期預金金利を普通預金と同水準にする銀行も増えそうです。しかも、黒田日銀総裁は、個人預金へのマイナス金利を否定していないことから、状況に応じてさらなる利下げとなれば、ありえないことでもないでしょう。場合によっては、預金引出手数料や振込手数料などの各種事務手数料の値上げという形で影響が出ることも推測されます。

デメリットの2つ目は、国債利回りに連動する金融商品の利回りも低下する可能性があることです。預金金利が下がることで国債が買われれば、国債の利回りは下がります。そのため、貯蓄型保険などの利回りは下がるとみられます。必要な保障なら、下がる前に契約するのが賢いかもしれません。

家計におけるデメリット
・預金金利が下がる
・貯蓄型保険など国債利回りに連動する商品の利回りも低下
(・円安になって輸入品などの物価が上がる?)
家計におけるメリット
・住宅ローンなど借入金利が低下
(・株価が上がる?)

最大のメリットは、住宅ローンなど借入金利が低下することで、ローンが利用しやすくなる点でしょう。将来、景気が良くなることが見込めれば株価も上がり、それもメリットになるはずですが、現在のところ本格的な株価上昇は見込めていません。

住宅ローン金利はどうなる?

マイナス金利による大きな影響がでるのは、前述の通り住宅ローンの借入金利です。

マイナス金利政策で、金融機関が日銀に預けずに手元に置く資金が増えることから、少しでも運用したいと法人・個人への貸し出しを増やそうとするはずです。また、貸し出しで適用される金利が低下することからも、住宅ローンをはじめ各種ローンが利用しやすくなると予想されます。

住宅ローンには変動金利と固定金利があり、それぞれ金利の決まり方が異なります。

日銀の当座預金の金利は「政策金利」とも言われ、金融機関同士の短期のお金の貸し借りの際の金利の目安にもなっています。それによって、金融機関が融資する上で問題がない企業等に対して、1年以内の短期で貸し出す際の最優遇貸出金利(短期プライムレート)が決まります。変動金利はこの短期プライムレートをベースにするため、マイナス金利の影響は変動金利にストレートに現れます。ちなみに、日本では現状ローン金利がマイナスになることはありませんが、同様にマイナス金利を導入したデンマークでは、マイナス0.75%まで引き下げたことで金融機関の住宅ローンにもマイナス金利が適用され話題になりました。

住宅ローンの固定金利は、10年物国債の利回りにより影響を受けます。マイナス金利が発表されると、「金融機関はだぶついた資金で国債を買う」「個人も0.05%の最低金利が保証されている個人向け国債を買うだろう」と予測され、10年物国債の利回りはすでに大幅下落しています。2月7日現在0.031%まで下がっています。住宅ローンの金利は毎月1日に見直されますが、3月の見直しでは固定金利も大きく引き下げられると予想されます。

変動金利だけでなく固定金利も1%を下回る場合は、住宅ローン控除が適用になる期間は、実質的なマイナス金利。借りるとお金がもらえる状態です(事務手数料や団信保険料などにもよる)。「預金に置いても金利が付かないなら、住宅ローンの繰上返済をしよう」と考える人もいるかもしれませんが、借り換えをして継続するのとどっちが得か慎重に考えた方がいいでしょう。

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私が書きました

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豊田 眞弓 (とよだ まゆみ)

ファイナンシャル・プランナー、シニアリスクコンサルタント。

20代前半より経営誌や経済誌、女性誌と広く手がけるライターとして個人事業を展開。1995年より独立系FPとして、雑誌やムック、新聞、サイトへの寄稿・監修、相談業務、講師などで活躍。「今日からの お金持ちレシピ」(明日香出版)をはじめ共著本など多数。

※執筆日:2016年02月08日