第513回

「返済」と「貯蓄」を両立させるためのイマドキ家計やりくり方法は?

この4月から新社会人として働き始めました。配属後には一人暮らしを始め、独立して生活する予定です。また、秋には奨学金の返済も始まるため、家計のやりくりをしっかりしていきたいと思います。先輩の話では、手取りは20万円程度で、ボーナスもあると聞いていますが、どういった点に気をつけたら良いのでしょうか?(Nさん 23歳 会社員)
「お金を返しながら、将来に向けて貯蓄をする」といった状況にあるということは、家計のやりくりのコツをつかむには良いチャンスです。「自分にとって」のお金の優先順位を見極めていきましょう。

「自分が使えるお金」を把握することからスタート

家計のやりくりの第一歩は「現状を把握すること」。FPとしてよく「食費は“普通”いくらくらいですか?」といった質問を受けることがありますが、家計に“普通”はありません。食べることが好きな人は食費が高くなるでしょうし、洋服が好きな人は衣服費が高くなるでしょう。限りある収入の中でやりくりしていくためにも、自分にとって「何に」「いくら」必要なのかを知ることで、お金を使う優先順位が決められるようになります。

特にNさんの場合は一人暮らしを始めるとのことですから、無理のない家賃がいくらなのかを知るためにも、そのほかにかかるお金を把握することが大切です。また、秋からは奨学金の返済も始まりますので、シビアに家計を見ていく必要があります。

Nさんのような方は増えており、新社会人スタート時から「お金を返しながら貯蓄をする」という生活をしている人が少なくありません。当初から家計のやりくりを覚えることで、将来家庭を持ち、住宅ローンや自動車ローンといった大きな借金を返しながら生活していくときの役に立ちます。

そこで、「自分が使えるお金」をしっかり把握しましょう。Nさんの場合、まずは手取り収入のうち、秋から返済が始まる金額を差し引き、さらに万が一のときのための貯蓄を差し引きます。貯蓄は5千円でも1万円でもいいので、貯め始めることが大切です。

例えば、奨学金の支払い専用口座を作り、そこに返済額を前倒しで入金していきましょう。秋までの半年間、先に入金することで、いざというときの滞納を防ぐことが出来ます。専用口座にしておくことで、ついつい使ってしまったということも避けられます。

以前のコラム(第499回)にも書きましたが、最近は奨学金を滞納している人が増えています。そのせいで、将来家庭を持った時に「自動車ローンや住宅ローンが借りられなかった」という相談もありますので、そういったことにならないよう、余裕を持って準備しておきましょう。

【参考リンク】

貯蓄に関しても同様です。普通預金に入れっぱなしにしていると、こちらもついつい使ってしまうことに。そうならないためには、別途、定期預金にするなどして「預金の種類」を分けておきましょう。今の時代は銀行の窓口に出向く必要もなく、ネットバンクでいつでも、どこでも手続きができます。普段使うお金は普通預金、将来のため、万が一のためのお金は定期預金から、まずはスタートしてください。

「継続して絶対にかかるお金」に気をつける

Nさんは2カ月後には一人暮らしを始める予定とのことですから、“家賃”という「継続して絶対にかかるお金」が発生してくることになります。契約後は簡単に値下げしてもらうこともできず、毎月必ず発生する支出なので、無理のない金額にすることが大切です。

家賃と同じようなものとして“保険”がよく挙げられます。「社会人になったのだから保険くらいは…」といった勧誘を受ける機会や考える機会が増えてくると思いますが、保険は自分に何かあったとき(亡くなったり、病気やけがをしたり)、金銭的に困ることがあれば加入するものです。また、社会保険でかなりサポートしてくれる部分もあるので、それでも不足する場合に検討しましょう。保険も「継続して絶対にかかるお金」だということをお忘れなく。

また、最近支出の多くを占めているのが“通信費”です。パソコンはもちろんのことスマートフォンやタブレット端末など、いつでもどこでもネット利用するための費用がどんどん増えてきています。これらも「継続して絶対にかかるお金」で、最近では“保険”よりも負担が大きくなってきています。生活上、必要なものであるからこそ契約タイプを比較したうえで選んだり、無料通話アプリを利用するなど、工夫できることがないか調べてみましょう。

困ったときの対応方法を知っておく

社会人になると「交際費」や「冠婚葬祭費」といったお付き合いに必要な支出も出てきます。中には結婚式が重なるなどして、負担が大きくなる時期も。そんなときのために貯蓄をしていくわけですが、まだその準備ができていないときには、「お金を借りる」のもひとつの方法です。

そのときに「借りやすいから」といった利便性だけで選ぶのではなく、金利なども比較し、総返済額(借りたお金+手数料)の負担が少ないものを選ぶようにしましょう。また、月々の返済額ばかりに注目しないことも大切です。最近は「リボ払い」といって、お金を借り続けても、一定期間は月々の返済額が変わらないという方法を利用している人が増えています。これは、月々の返済が一定になるため、やりくりはしやすいのですが、完済時期を意識しなくなり、いつまでたっても返済が終わらないといった事態に陥っている人もいます。クレジットカードのリボ払いや、カードローンについては、ご自身で繰上返済をすることができますので、余裕資金がある場合には早めに返済するように心がけましょう。

最後に伝えたい最も大切なことは、「困った時に放っておかない」ということです。Nさんの場合であれば、奨学金の返済もしながら一人暮らしを続けていく間に、どうしても金銭的に大変な時期があるかもしれません。そんな時期が一定期間続きそうな時は、まずは借りている所へ相談するということを覚えておいてください。例えば、日本学生支援機構で借りた奨学金であれば、返済に困った時は返済額を減らすなどの対応をしてくれます。お金を返せなくなると、他の金融機関でお金を借りて返そうとする人が多いのですが、「借金を返すための借金」はNGです。

逆に早めに返済できそうであれば繰上げ返済もできますので、何か変化があったときには相談するということを忘れないようにしましょう。

奨学金に限らず、お金に困ったときには無理をして他から借りてきて返済するといった対策ではなく、まずは相談することから始めましょう。借り換えや条件変更といった方法で対応できることもありますので、どんな方法があるのか選択肢を把握することから始めてください。

【参考リンク】

「お金を返しながら将来のために貯蓄をする」ことは、大変に思われるかもしれません。しかし、一方でそういった経験を早いうちからできることで、家計のやりくりのコツを早々に掴むことが出来ます。お金とは一生付き合っていくものですから、経験をしながら、自分に合った方法を探していきましょう。

私が書きました

中森 順子 (なかもり じゅんこ)

ファイナンシャル・プランナー。

プログラマー・SEを経験後、結婚を機に税理士事務所へ転職。企業の税務・社会保障・融資のサポートなど幅広く経験。個人のお金に関する相談が増えたことから、FP資格を取得。10年勤務後、個人の家計サポートに集中すべく、2003年に独立。住宅購入や資産運用、保険見直しなど、自分自身の経験も交え、執筆・セミナー・相談と幅広く活動中。家計診断は500件以上の実績あり。

※執筆日:2013年03月29日