第594回

ローンの残債がある状態で親が亡くなったときは借金も相続することになる?

「2015年から相続税が増税」と書かれた雑誌の表紙が最近よく目につき、相続に興味を持ちはじめました。私の両親は地方の実家に住んでいます。すでにリタイアしているため、年金とパート収入が主な収入ですが、財産は自宅の土地・建物のほかに、いくらか金融資産もあるようです。ただ、まだ住宅ローンや自動車ローンを返済しているようです。住宅や自動車を相続した場合には、借金も相続することになるのでしょうか? (40歳 女性)
借金も相続することはできますが、プラスの財産よりもローンの残債などのマイナス財産のほうが多い場合には「相続放棄」をすることも可能です。また、「限定承認」といってプラスの財産の範囲で借金を支払う相続のやり方もあります。いずれにしろ、相続に懸念がある場合には、親が元気なうちにしっかり家族で話し合っておくことが重要です。

住宅ローンの残債は一般的には相続しなくてすむ

マイホームの購入で住宅ローンを利用している人は、住宅ローンの契約と同時に「団体信用生命保険」に加入している場合が多いです。現在、民間の金融機関の住宅ローンでは、団体信用生命保険に加入しないとお金を貸してくれないところがほとんどです。【フラット35】の場合には、団体信用生命保険への加入は任意となります。

団体信用生命保険に加入すると、ローンを借りている人が返済中に死亡(あるいは高度障害状態)した場合、残債と同額の保険金が金融機関に払われて残債が帳消しになります。そのため、遺族は借金のない自宅を相続することができます。この保険があるおかげで、遺族は一家の大黒柱が万が一亡くなるようなことがあっても返済負担を負わなくてすみ、生活を続ける上でとても助かります。貸し手である金融機関にとっても、ローン契約者が死亡したことによる貸し倒れリスクを軽減することができます。

ただ、【フラット35】のように、団体信用生命保険に加入しなくてもよい住宅ローンで、実際に加入しなかった場合は、遺族が住宅ローンを相続し、返済を続けなければなりません。

不動産経営をしている資産家の中には、相続税の節税対策のために借金をしてアパートやマンションを建てることで、死亡時の相続財産を少なくする人もいます。

自動車ローンは、自動車と共にローンも引き継ぐ

金融機関から自動車ローンを借りて購入した方が亡くなった場合、遺族は自動車の所有権と自動車ローンを引き継ぐことになります。

なお、ディーラーの提携ローンを利用して自動車を手に入れた場合、所有権は信販会社やクレジットカード会社が持っていますが、車の代金に分割払手数料(利息)を上乗せして毎月返済するという購入者の契約は遺族が相続することになるため、債務を引き継ぐことに変わりはありません。

プラスの財産よりもマイナスの財産(残債)が多い場合は相続放棄ができる

相続財産のうち、プラスの財産よりもマイナスの財産が多い場合は、相続人に負担だけがかかってしまいます。そのようなときには、相続があったことを「知った日から」3か月以内に家庭裁判所に申し出て、相続を放棄することができます。

また、プラスの財産の範囲でマイナス財産を支払い、それを超えるマイナス財産については返済負担を負わないという「限定承認」という相続の方法もあります。この場合も相続があったことを「知った日から」3か月以内に家庭裁判所に申し出る必要があります。

なお、親の死後にあわてて親の財産の範囲と金額を調べ、相続の方法を検討するのでは時間がありません。できれば、親が元気なうちに財産目録を作成してもらい、親の意向を確認しながら家族同士で「遺産分割」について話し合う機会を設けたほうがよいでしょう。

相続税がかかる、かからないに関わらず、遺族が複数いるすべての相続には「誰が何を相続するか」という「遺産分割」の問題が生じます。借金の有無も含めて、「どこにどんな財産がいくらあるか?」を親にはっきりさせておいてもらうと良いでしょう。

私が書きました

中村 宏 の写真

中村 宏 (なかむら ひろし)

ファイナンシャル・プランナー。株式会社 ワーク・ワークス代表取締役。

教育出版社勤務後、2003年にファイナンシャルプランナーとして独立。「お客様のお金の不安を解消する」をモットーに、1,500件を超える個人相談、セミナー講師、雑誌取材、執筆・寄稿等を中心に活動。無料メルマガ「生活マネー ミニ講座」を配信中。著作 「自分のお金の育て方」(祥伝社)、「老後に破産する人、しない人」(KADOKAWA中経出版)。

※執筆日:2014年10月11日